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二股疑惑
しおりを挟む私の隣に立つ、銀髪の騎士の姿に視線が集まる。その視線を感じたのか、食堂のおじさんが、私を見つけた。そして、いつもの調子で、大声で私に話しかけてきた。爆弾を含む内容と共に。
ソルと一緒に来てはいけないところに、来てしまったことを、私は後から死ぬほど後悔したのであった。
「やぁ、おはようアイちゃん。お、今日は騎士様をお連れかい?いやに綺麗な騎士様だねぇ~、アイちゃんも美人だけど、二股はいかんよ、二股は!ははは!」
すっかり仲良くなった食堂のおじさんは、ソルと私を見るなり大きな声で話しかけてきた。以前、酔っ払ってしまい、サボの部屋にお持ち帰りされてしまい、かつその次の日から毎朝サボを訪ねてくる私は、すっかりサボの恋人扱いであった。その上、今日はソルと一緒だ。目立つこと、この上ない。
「アイリス・・・アイちゃんって?君のこと?」
いろいろと驚いてしまっているソルは、小声で質問してきた。
「まぁね。本名を教えるのはどうかと思って、アイです、って言ったら、アイちゃんって呼ばれてる。ははは。」
「あと、二股って、どいうこと?」
しまった。お持ち帰り事件は知られたらマズイ。無茶苦茶怒られるに違いない。純潔は守った(?)・・・けど、誰にも知られたくない。食堂にくるのはマズかった。
「ええとぉ・・・」
「それは、僕が答えようかな。」
私の様子を、2階の踊り場からみていたサボは、「くくっ」と笑いつつ、階段を下りてきた。
「サボ師匠、お久しぶりです。相変わらず、お元気そうで何よりです。」
ソルは、サボの姿をみると、丁寧に挨拶を返した。サボは、今、寝起きの姿そのままに、金のくるっとカールしている髪を、ぴょこん、ぴょこんと跳ねさせていた。
「ああ、久しぶりだね。あれ?また背が高くなった?僕より高いなんて、生意気だよね。まぁ、もう一人も生意気そうなガキだったな。」
「師匠、とりあえず、朝ご飯にしましょう!元気が出ないと、特訓もできません!」
レオンのこととか、色々とソルにばれるとマズイ。話題を変えるに限る。
アイリスはいつものごとく、サボの世話を始める。3人の座ることのできるテーブルを探し、朝食をオーダーし、水を持ってくるなどして、ようやく落ち着いてきた。私も、ソルも、すでに朝食は済ませていたから、飲み物をオーダーするだけだった。
「え~っと、まずは二股疑惑だっけ?」
せっかくの爽やかな朝の雰囲気を、ガラガラと変えるべく、サボが話しはじめた。・・・大丈夫かな。あのことを話しませんように!と祈りつつ、サボの話を聞く。
「姫がさぁ、お酒の飲みすぎで酔っ払ったから、僕の部屋に泊めたんだよ。その時、僕が派手に抱っこして持って行ったからさぁ、すっかり有名になっちゃって。」
早速言った!
「次の日に、食堂の親父に聞かれたから、責任はとるよって、話をしたら、うん、まぁ、そういう関係って、思われている。あ、大丈夫だよ、ちゃんとプロポーズしたからね。ソル兄ちゃん。」
さらに言った!嘘ではないが、大きく誤解される内容にすり替えて言った!そしてソルが嫌いな、「お兄ちゃん」呼びまでしている。
私は、あわあわとしてしまった。もちろん、ソルの顔は凍っている。
サボは、何食わぬ顔をして朝ご飯を食べ続けていると、また話を始めた。
「あのレオンハルト皇子も、手が早い奴だね。姫の唇が奪われていたから、銃口をつきつけてやったよ。アイツも、アイリスにプロポーズしていたよね、俺を選べ、だっけ?僕の方が、よっぽどロマンチックだったよね。」
「師匠、これ以上何も言わないでください!」
私は真っ青になりながら、ギギギとソルの方を見ると、ソルの周囲は吹雪のように冷たい空気が漂っていた。最悪に怒っている。これは、かなりキてる・・・。
「アイリス、事実はきちんと伝えないと。僕の気持ち、無視しちゃダメだよ。」
サボはそういうと、また「ククっ」と、笑っていた。サボ師匠・・・絶対に私で遊んでいる。訓練の時はきちんと教えてくれるのに、プライベートの時間になると、とたんに意地悪になるのは、やめてほしかった。
結局、その日は一日、訓練はできなかった。ソルに引っ張られるように連れ戻されると、事実を説明しろと、尋問にあった。尋問は騎士の仕事の一つでもあるから、私が隠せることなど、何もなかった。・・・怖かった。私のライフ、かなり削り取られたと思う。
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