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学園の門
しおりを挟むサルベニア王国は敗戦したが、市街戦などがなかったことも幸いし、復興は安全に、そして予想よりも早いスピードで行われた。また、サザン帝国方式の教育制度を採り入れ、エリートである貴族の子弟や、成績の良い平民からも生徒を受け入れるサザン帝国立の学園が開校された。それは、男女の違いなく学ぶことができる、先進的な学園でもあった。
サルベニア王国が滅びてから10年が過ぎ、18歳になった私は学園の寮に住んでいた。魔蔦に襲われた翌日の夕方、話を聞いたソルディーエル王子は、学園の門のところで、アイリスを待っていた。
それを見る女子学生たちは、麗しい姿の元王太子を見て、ため息をつきながら通り過ぎるのであった。門に寄りかかりながら腕を組み、瞳の色を誤魔化すためにかけた色の入った眼鏡をかけた姿は、何も言わずとも人々の視線を集めるものだった。
「ソル兄さま、わざわざ迎えに来てくれなくても良かったのに。忙しくなかった?」
白と青の制服を着こなしたアイリスは、門のところに待ち人を見つけると、小走りになって近づいた。その姿をみて、ソルは目を細めて微笑んだ。
「アイリス、今日は午後から非番だったから、大丈夫だよ。寮まで送るよ。」
敗戦後、一時は拘束された時期もあったが、元王族として監視がつきつつ、二人は帝国の教育を受けながら成長した。ソルディーエル王子は、2年前に学園の騎士コースを終了し、今は騎士団に所属している。憧れの王子様の外見は、精悍な青年へと成長していた。
「アイリス、また無茶をしたと聞いたよ。火傷もしたって。スイレン姫と呼ばれる君は、いつになったら可憐に穏やかに過ごすことができるようになるのかなぁ。まあ、あと少しで卒業だからね。待ち遠しいよ。」
私は皇后であった祖母から、スイレン宮を受け継いでいた。かつて離宮として使用されていた宮殿は、いまは王国の当時の繁栄を表す、最後の宮殿だ。そのスイレン宮の持ち主であり、瞳がスイレンのように美しい紫であることから、私もいつしか『スイレン姫』と呼ばれるようになっていた。
「ソル兄さま、そんなに心配しないでも大丈夫よ。私は妖銃アレンを受け継ぐ妖銃使いよ。知っているでしょ。」
実際の私は、妖銃片手にダンジョン攻略やら魔物を狩る、可憐とは正反対の性格をしている。ただ、あまり公にしていないので、旧サルベニア王国の王室ファンには、私は「可憐で美しいスイレン姫」というイメージがついている。
「でも今回も、レオンハルト皇子に助けられたと聞いたよ。ああ、なんでアイリスを助ける者が私ではなかったのだ。あの者は・・・邪魔だな。」
そういって不機嫌なオーラをだしたソルは、アイリスの髪をなでながら、そのひと房をそっとひろい、口づけた。
「・・・あの変態皇子、アイリスに何かしなかったか。」
何もなかったと言いたい。履いているパンツをねだられた、は、まだ可愛い。なぜなら決して渡さないからだ。ただ、火傷痕を治療するため、手から指から舐められたことは、何かあった範疇に入るのだろうか。
キスは・・・いや、面倒なことになるといけないから、黙っておこうと決めたが、一瞬目が泳いでしまった。そしてその一瞬を、ソルは見逃さなかった。
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