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アイリスとアレン
しおりを挟む私の相棒の妖銃アレン。その出会いは衝撃的で、その強さは圧倒的であった。
私の生まれた国、サルベニア王国はもうない。西の大国、サザン帝国に滅ぼされた。
王国の終焉は10年前、それは私が8歳の時、突然訪れた。サザン帝国が、一方的に侵略してきたのだ。300年も続く農耕を主な産業としていた私の王国は、平和そのものであった。
その平和が、ある日突然脅かされることになるとは、誰も想像していなかった。何の兆候もなく、帝国は開戦を宣告した。
「なぜだ、帝国は我々と不可侵の条約を結んでいたではないか。今更、こんな小さな国を侵略せずとも、広大な領地があるだろ。我が国には、目立った資源もなければ、領土も狭い。」
それは帝国の気まぐれだったのかもしれない。実際、開戦したといっても国境沿いの砦以外では目立った戦闘もなく、圧倒的な兵力の差で私の国はすぐに追い詰められていった。常に大国として周辺国と緊張感を持つ帝国の兵士と、平和ボケしている王国の兵士では、数も質も負けていた。
そして、王国の中心であるサルビア宮殿が、帝国軍に囲まれて陥落されようとしていた。
「王弟殿下、アイリス様をお連れして、スイレン宮へお逃げください。まもなく敵の帝国軍が、この王宮に到達すると思われます。」
当時、サルビア宮殿には王家に連なる人たちが、集まっていた。王様の弟である父も、私を連れてサルビア宮殿にいた。宮殿を囲むように帝国軍が、すぐそこに到達していた。敗戦することは、目に見えていた。その日は新月の夜で、漆黒の闇が訪れようとしていた。
それでも当時の宰相をはじめ、王国はどれだけ帝国と交渉できるのか、探っていた。そして、王のスペアでもある父とその家族である私を、王の息子の王太子と一緒に逃がそうとしていた。父は、宰相に言った。
「宰相、例えスイレン宮に逃れようと、帝国からは逃れられない。ただ、この小さなアイリスの命は、ここで消したくはない。ソルディーエル王子、君のプリンセスのアイリスを連れて、生き延びるんだ。君たちには、私たちとは違った未来がある。」
「父さま、アイリスも父さまと一緒にいます。アイリスはサルベニア王国と運命を共にします。」
「アイリス、君にはスイレン宮がある。スイレン宮に行きなさい。あそこは、おばあ様の残した美しいスイレンの花があるからね。君も、スイレンのように美しい紫の目をしているのだから、大きくなって、ソルディーエル王子の花となりなさい。」
父は、私と王太子に、王国の行先を委ねるように話した。その目は落ち着いていて、優しかった。
「アイリス、行こう。僕が守るよ。」
当時10歳のソルディーエル王子は、彼自身も恐ろしかったと思うが、懸命に私を守ろうとしていた。
深い湖のように濃い青の瞳に、王家特有の白の入る銀髪を持つ王子は、幼いながらも聡明さを持ち、将来を待望されていた。見目麗しい容姿を持つその人は、私の婚約者でもあったが、従兄という関係でもあったので、私はいつも兄さま、と呼んでいた。
「でもソル兄さま、私、このスイレン宮を離れてはいけないと思うの。王国の運命を、私たちも見ないといけないと思うの。怖いけど。それに、誰かが呼んでいるような気がする。」
幼いながらも、私は王家に連なる者としての責任を感じていた。それだけでなく、私にその場に留まるように導く声が、聞こえたように思う。出会わなくてはいけない何かと。このサルビア宮で。
「アイリス、ここは危険だよ。今は早く行こう。」
「まって、まだ、誰かが呼んでいる。」
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