61 / 67
森の奥の屋敷12
しおりを挟む曲が終わるのと同時に、二人はスカラの前に立った。
「素晴らしい、天の祝福だ。……では、誓いの言葉を」
スカラはレオナルドに向き合うと、式文を読み上げた。
「汝、レオナルド・ニスカヴァーラは女、ユリアナ・アーメントを妻として、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、生涯敬い、慈しみ、愛することを誓うか?」
「はい、誓います」
レオナルドはユリアナが盲目であっても、変わらない愛を与えてくれた。片足が悪くても、支え導いてくれるだろう。彼の誓いの言葉には真実味があった。
続いて、スカラはユリアナの方を向き同じように読み上げる。
「汝、ユリアナ・アーメントは男、レオナルド・ニスカヴァーラを夫として、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、生涯敬い、慈しみ、愛することを誓うか?」
「はい。……誓います」
今のレオナルドには身分もなく、財産もないに等しい。それでも、ユリアナは構わなかった。むしろ、ひとりの男としてまっさらな彼を愛することができる。その喜びに、胸が打ち震えた。
「それでは、指輪の交換を」
スカラはレオナルドの手作りの指輪を取り出すと、二人の前に置いた。木でできた、なんの石もついていない輪だけの指輪だった。
「いつか、もっと豪華な指輪を贈るから」
恥ずかしそうにしながらも、どこか誇らしげにレオナルドは指輪を持つとユリアナの手にはめた。けれど、薬指にはめると大きすぎて、ぶかぶかしている。
「ごめん、君の指は細かったな……」
眉根を寄せた彼はどこか納得のいかない顔をしていた。
同じように、ユリアナもレオナルドの作った木の輪を彼の薬指にはめる。お揃いの指輪には年輪が浮かび上がっている。何の宝石もついていない、光もないシンプルな指輪だ。
彼は豪華な指輪を贈るというけれど、この木目のある指輪の方が、これから夫婦となる二人を祝福しているように思われた。ユリアナとレオナルドは、少なくない年数を互いに想いあい、犠牲を払って来た。それが今日、ようやく結婚という形に実を結ぶ。
ユリアナは自分の指にはめられた木の指輪を、反対側の手でそっと撫でた。彼の想いがこもっているこの指輪を、もう失くしたくない。
「ここに二人が夫婦となったことを宣誓する。互いに愛し合うように。では、誓いの口づけを」
レオナルドはユリアナに向き合うと紫の瞳をじっと見つめ、さっきとは違って羽のように軽く唇を合わせた。
すると、雲の合間から光が二人の上に降り注ぎ、白い鳥たちが頭上を飛んでいく。顔を離した彼は、満面の笑みで緑の冠をつけたユリアナを見つめ、愛おしそうに目を細めた。
見えないそれらを不思議なことに感じ取ったユリアナは確信する。
——あぁ、今。この時を私は先見していたのね。
今のレオナルドの顔は、何度も繰り返し思い出していた笑顔だろう。先見した未来が今、ここに成就した。
「ねぇ、レオナルド。今、幸せ?」
「……当たり前だ」
ユリアナはレオナルドに先見した未来が今だと告げると、感極まったレオナルドはユリアナを持ち上げ嬉しそうに口づけを交わす。
森の館で行われた結婚式は、その後語り継がれるほど神々しいものだった。緑の森を背景にして、白い衣装を着た新婦は幸せに包まれて皆に祝福される。
ガーデンパーティーはそのまま、結婚を祝う会となって賑やかに催された。
3
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる