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森の奥の屋敷12

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 曲が終わるのと同時に、二人はスカラの前に立った。

「素晴らしい、天の祝福だ。……では、誓いの言葉を」

 スカラはレオナルドに向き合うと、式文を読み上げた。

「汝、レオナルド・ニスカヴァーラは女、ユリアナ・アーメントを妻として、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、生涯敬い、慈しみ、愛することを誓うか?」
「はい、誓います」

 レオナルドはユリアナが盲目であっても、変わらない愛を与えてくれた。片足が悪くても、支え導いてくれるだろう。彼の誓いの言葉には真実味があった。

 続いて、スカラはユリアナの方を向き同じように読み上げる。

「汝、ユリアナ・アーメントは男、レオナルド・ニスカヴァーラを夫として、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、生涯敬い、慈しみ、愛することを誓うか?」
「はい。……誓います」

 今のレオナルドには身分もなく、財産もないに等しい。それでも、ユリアナは構わなかった。むしろ、ひとりの男としてまっさらな彼を愛することができる。その喜びに、胸が打ち震えた。

「それでは、指輪の交換を」

 スカラはレオナルドの手作りの指輪を取り出すと、二人の前に置いた。木でできた、なんの石もついていない輪だけの指輪だった。

「いつか、もっと豪華な指輪を贈るから」

 恥ずかしそうにしながらも、どこか誇らしげにレオナルドは指輪を持つとユリアナの手にはめた。けれど、薬指にはめると大きすぎて、ぶかぶかしている。

「ごめん、君の指は細かったな……」

 眉根を寄せた彼はどこか納得のいかない顔をしていた。

 同じように、ユリアナもレオナルドの作った木の輪を彼の薬指にはめる。お揃いの指輪には年輪が浮かび上がっている。何の宝石もついていない、光もないシンプルな指輪だ。

 彼は豪華な指輪を贈るというけれど、この木目のある指輪の方が、これから夫婦となる二人を祝福しているように思われた。ユリアナとレオナルドは、少なくない年数を互いに想いあい、犠牲を払って来た。それが今日、ようやく結婚という形に実を結ぶ。

 ユリアナは自分の指にはめられた木の指輪を、反対側の手でそっと撫でた。彼の想いがこもっているこの指輪を、もう失くしたくない。

「ここに二人が夫婦となったことを宣誓する。互いに愛し合うように。では、誓いの口づけを」

 レオナルドはユリアナに向き合うと紫の瞳をじっと見つめ、さっきとは違って羽のように軽く唇を合わせた。

 すると、雲の合間から光が二人の上に降り注ぎ、白い鳥たちが頭上を飛んでいく。顔を離した彼は、満面の笑みで緑の冠をつけたユリアナを見つめ、愛おしそうに目を細めた。

 見えないそれらを不思議なことに感じ取ったユリアナは確信する。

 ——あぁ、今。この時を私は先見していたのね。

 今のレオナルドの顔は、何度も繰り返し思い出していた笑顔だろう。先見した未来が今、ここに成就した。

「ねぇ、レオナルド。今、幸せ?」
「……当たり前だ」

 ユリアナはレオナルドに先見した未来が今だと告げると、感極まったレオナルドはユリアナを持ち上げ嬉しそうに口づけを交わす。

 森の館で行われた結婚式は、その後語り継がれるほど神々しいものだった。緑の森を背景にして、白い衣装を着た新婦は幸せに包まれて皆に祝福される。

 ガーデンパーティーはそのまま、結婚を祝う会となって賑やかに催された。



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