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ゼフィールの旅立ち②
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◆◆◆
そうしてすぐに、ゼフィールはベルカ子爵領へと旅立つことになる。私も知っていることを伝えたかったけれど、さすがに会う時間をとることはできなかった。
でも、出立の時は見送りたいとわがままを言い、ルドヴィーク様と一緒に城の裏門に行く。まだ朝焼けの始まる前に城を出ると聞き、薄暗い中を二人で歩く。
まだ肌寒い季節だからと、上着を羽織っていた。
すると厩舎から馬を引き、旅支度をしたゼフィールが待っている。前回見かけた時よりも、少し頬がこけていた。
「ルドヴィーク様! 本当に、見送りに来てくれたのですね」
「少し瘦せたか?」
「はい、謹慎しておりましたので」
ルドヴィーク様は普段と変わりなく言葉をかけた。きっと今は領主としてではなく、長い付き合いの親友として接しているのだろう。
だがゼフィールは、私の方を向くと深く頭を下げた。
「アリーチェ殿……いえ、奥様。本当に私を助けてくださり、ありがとうございました。あの時、苦しまれているにもかかわらず、魅了を解いてくださり……感謝の言葉もありません」
「そんな、私にできることをしただけです。あの時は夢中だったので」
「いえ、ご自身を守ることに力を使われず、私を救ってくださったこと、このゼフィール、決して忘れはしません」
再び頭を下げた彼は、私が「もう、大丈夫です」と言うまで下ろしたままだった。
「ゼフィール、その恩をこれから子爵領のために尽くしてこい」
「はい、肝に銘じます。奥様の弟君が立派な領主となれるよう、指導いたしましょう」
「ありがとう、あなたが行ってくれると、とてもありがたいわ」
子爵領は遠いから、次にいつ会えるのかわからない。ふいに涙が込み上げてくる。
「奥様、それにルドヴィーク様。お二人の真実の愛をこの目でみることができたこと、忘れません」
「それだが、どうして俺がアリーチェを抱きしめたのが、真実の愛の証明になるんだ?」
「なっ、ルドヴィーク様はご存知なかったのですか? 魔法蔦を枯らすには、真実に愛する二人の口づけだということを!」
「なんだ、そうだったのか……知らなかった」
「知らなくて、あのように危ないことを……! 魔法蔦は感染するのに、一歩間違えていれば、今頃ルドヴィーク様も……」
呆れた顔をした彼に、ルドヴィーク様は「終わったからいいではないか」と言い、ははっと豪快に笑った。こんなにも明るい笑顔を見ていると、湿っぽい雰囲気はどこかに去ってしまう。
最後は穏やかに別れを告げあった。領地に人たちへの伝言を渡すと、いよいよ出発となる。道中は一人だけど、最強と謳われるバルシュ辺境騎士団の一員だった彼なら問題ない。
馬に跨った彼は、帽子を深くかぶる。するとルドヴィーク様はニカッと笑いながら、彼に言葉をかけた。
「子爵領でついでに筆おろしもしてこい。神聖な魔法使いは卒業するんだな」
ルドヴィーク様はこんな時にも関わらず、冗談を口にした。隣にいた私は驚き、横顔をまじまじと見てしまう。でも、生真面目なゼフィールはその言葉の意味がわからないのかポカンとしている。
「……筆おろしに、魔法使いとは? 私に魔力はありませんが」
「ははっ、意味ならアリーチェの姉の、アミフェ殿に尋ねるんだな。最も、領地にいるとは限らないが」
「はぁ、わかりました。アミフェ殿にお会いした時に、そう伝えればよろしいのですね」
「そうだ。しっかりと教えて貰え」
どこか誇らしげな顔をして、ルドヴィーク様はゼフィールの背中を叩く。男同士の友情なのか、私にはわからない。
「では、行ってまいります」
彼は顎を上げると、街道へ出る道を下っていく。ゼフィールはそのまま一度も振り返ることはなかった。
そうしてすぐに、ゼフィールはベルカ子爵領へと旅立つことになる。私も知っていることを伝えたかったけれど、さすがに会う時間をとることはできなかった。
でも、出立の時は見送りたいとわがままを言い、ルドヴィーク様と一緒に城の裏門に行く。まだ朝焼けの始まる前に城を出ると聞き、薄暗い中を二人で歩く。
まだ肌寒い季節だからと、上着を羽織っていた。
すると厩舎から馬を引き、旅支度をしたゼフィールが待っている。前回見かけた時よりも、少し頬がこけていた。
「ルドヴィーク様! 本当に、見送りに来てくれたのですね」
「少し瘦せたか?」
「はい、謹慎しておりましたので」
ルドヴィーク様は普段と変わりなく言葉をかけた。きっと今は領主としてではなく、長い付き合いの親友として接しているのだろう。
だがゼフィールは、私の方を向くと深く頭を下げた。
「アリーチェ殿……いえ、奥様。本当に私を助けてくださり、ありがとうございました。あの時、苦しまれているにもかかわらず、魅了を解いてくださり……感謝の言葉もありません」
「そんな、私にできることをしただけです。あの時は夢中だったので」
「いえ、ご自身を守ることに力を使われず、私を救ってくださったこと、このゼフィール、決して忘れはしません」
再び頭を下げた彼は、私が「もう、大丈夫です」と言うまで下ろしたままだった。
「ゼフィール、その恩をこれから子爵領のために尽くしてこい」
「はい、肝に銘じます。奥様の弟君が立派な領主となれるよう、指導いたしましょう」
「ありがとう、あなたが行ってくれると、とてもありがたいわ」
子爵領は遠いから、次にいつ会えるのかわからない。ふいに涙が込み上げてくる。
「奥様、それにルドヴィーク様。お二人の真実の愛をこの目でみることができたこと、忘れません」
「それだが、どうして俺がアリーチェを抱きしめたのが、真実の愛の証明になるんだ?」
「なっ、ルドヴィーク様はご存知なかったのですか? 魔法蔦を枯らすには、真実に愛する二人の口づけだということを!」
「なんだ、そうだったのか……知らなかった」
「知らなくて、あのように危ないことを……! 魔法蔦は感染するのに、一歩間違えていれば、今頃ルドヴィーク様も……」
呆れた顔をした彼に、ルドヴィーク様は「終わったからいいではないか」と言い、ははっと豪快に笑った。こんなにも明るい笑顔を見ていると、湿っぽい雰囲気はどこかに去ってしまう。
最後は穏やかに別れを告げあった。領地に人たちへの伝言を渡すと、いよいよ出発となる。道中は一人だけど、最強と謳われるバルシュ辺境騎士団の一員だった彼なら問題ない。
馬に跨った彼は、帽子を深くかぶる。するとルドヴィーク様はニカッと笑いながら、彼に言葉をかけた。
「子爵領でついでに筆おろしもしてこい。神聖な魔法使いは卒業するんだな」
ルドヴィーク様はこんな時にも関わらず、冗談を口にした。隣にいた私は驚き、横顔をまじまじと見てしまう。でも、生真面目なゼフィールはその言葉の意味がわからないのかポカンとしている。
「……筆おろしに、魔法使いとは? 私に魔力はありませんが」
「ははっ、意味ならアリーチェの姉の、アミフェ殿に尋ねるんだな。最も、領地にいるとは限らないが」
「はぁ、わかりました。アミフェ殿にお会いした時に、そう伝えればよろしいのですね」
「そうだ。しっかりと教えて貰え」
どこか誇らしげな顔をして、ルドヴィーク様はゼフィールの背中を叩く。男同士の友情なのか、私にはわからない。
「では、行ってまいります」
彼は顎を上げると、街道へ出る道を下っていく。ゼフィールはそのまま一度も振り返ることはなかった。
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