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君が淫乱でも構わない②
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「もしかすると、最初に言われた結婚の契約はそのためでしたか?」
今となっては謎だらけだった『愛することはない』宣言。翌朝撤回されたけど、私がふしだらな女だと思われていたなら、仕方がない。
「そうだ。君は男を魅了してやまない子爵令嬢で、閨の技術も高いと聞いていた」
「それは姉のことです!」
なんてことだろう! アミフェ姉さまと勘違いされていたなんて。
でも、お父様であるベルカ子爵に娘が二人いることは知られていない。正妻の娘は私だから、王宮に届けられているのは私だけだ。
それに、王都にいても私はひきこもってばかりで社交界に顔をだしていない。アミフェ姉さまばかりが目立ってしまい、妹の私に気がつく人は少なかったから……勘違いされたのだろう。今更だけど。
「それで、ベルカ子爵令嬢あてに結婚の申し込みをされたのですか?」
「そうだ。百戦錬磨の女性であれば……この俺の勃起不全をどうにかできると思われデイモンドに仕組まれた」
勃起不全。
……勃起不全?
それって、男性器が勃ちあがらない症状だったような……。
ちらりと彼の股間を見てしまう。今は自然だけれど、いつもすっごく大きかった。あれで勃起不全だったと言われても、すぐには信じられない。
「本当に?」
「ああ、俺は以前、呪いを受けてから勃起することがなかった。性欲を感じたこともない」
「えっ、では……ルドヴィーク様は童貞で、魔法使い一歩手前だったのですか?」
「くっ」
私の言葉は矢のように彼の心に突き刺さっていた。はっきりと言い過ぎるのも毒になると、アミフェ姉さまからも注意されていたのに。特に童貞の話題は繊細だから要注意よ、って聞いていたのに。
「あっ、ご、ごめんなさいっ! 童貞だなんて、思っていなかったもので……こんなにも、ご立派なものをお持ちですのに、未使用だったんですね」
「だから……なぜ、そのような言葉を……!」
ルドヴィーク様は項垂れるように頭を下げている。貞淑な貴族令嬢が使うことはない、あけすけな言葉を知りすぎているからだろうか。
「あのっ、私も処女でしたので! ルドヴィーク様と同じで未使用でした!」
「君は、もういいから黙ってくれ」
そう言われてしまうと、しゅんとなってしまう。どうやら私は、アミフェ姉さまが身近にいたから恥じらいが足りないようだ。
悲しくなって俯いていると、ルドヴィーク様が私の顔の横にたれる髪を両手でかきあげる。自然と顔が上を向いて、視線が重なった。
「アリーチェ、俺は君とゆっくりと(ねっちりと)普通に愛し合いたい」
「……はい。私もルドヴィーク様をイかせたいです」
「また、そんなことを。……それは例の閨の格言なのか?」
「そうです。男を足だけでイかせるのが真の女道だと、教わりました」
ルドヴィーク様はけげんな顔つきになると、「足だけで?」と呟いた。
「やってみますか?」
「……いや、今はいい」
少しだけ残念そうな顔をして、ルドヴィーク様は口を結んだ。
呪いが解けてから、彼の表情は思っていたよりも豊かでなんだかちょっと……可愛い。
「では、私が元気になったらして差し上げますね」
「うっ……あ、あぁ」
にこにことしていると、ルドヴィーク様は「今は休むんだ」と言って、私を横たわらせて掛布をかける。
「君は……俺が初めてだったのか」
「はい、そうですよ」
そう答えると彼は優しい顔つきになって、私の額にゆっくりと唇で触れた。温かくて、柔らかい感触に心がくすぐられたように嬉しくなる。
「その、初めての時は優しくできただろうか……俺も舞い上がっていたから、君を思いやることもせずあの日は何度もしてしまったが」
「ルドヴィーク様は十分、優しかったです。アレは暴れん坊さんでしたけどね」
くすっと笑うと、彼も穏やかな顔になる。やっぱりカッコよくて好き。
「確かに暴れん坊で、聞き分けのない息子だな。だからアリーチェ、体力が戻った時は……いつか君が言っていたヌカロクをしてもいいだろうか」
「は、はい……はい?」
目の前にいる美麗な顔で甘く囁かれると、身体の奥がキュンとする。でも、ヌカロクって……ヌカロク?
「俺も初めてだから、慣れないが……なるべく、優しくする」
「はいぃ……」
甘さを含んだ低音が耳元で囁かれると、それだけでぞくりとして肌が粟立った。髪を耳にかけながら、顔を近づけたルドヴィーク様の唇がゆっくりと私の唇に触れる。
「んっ」
「楽しみだな」
鳥の羽のようにふわりとキスをして、彼は寝台に上がった。寝台が彼の重みでぐっとへこむと、体制を崩して彼に寄りかかってしまう。
「きゃっ」
ルドヴィーク様の力強い腕が私の身体を包みこみ、黒髪が頬にあたる。背中に回された腕に力を込められ、ぎゅっと抱きしめられた。
「柔らかいな。女性の身体がこんなにもふわふわだとは、知らなかった」
「私も、男性の肌がこんなにも硬いなんて……知りませんでした」
辺境伯として、軍隊を率いる彼は鍛えぬかれた身体を持っている。その力強い感触に、ときめきを感じてしまう。
「淫乱でも構わないと思っていたが……俺が初めてだったとは、嬉しいものだな」
「はい、でもルドヴィーク様も、私だけですよ?」
そっと顔を上げると、美しい顔をした人は「そうだな」と言って頬を緩める。こんな身近なところに美形男性がいては、休むのも休めない。
私は掛布を鼻までかけると「おやすみなさいっ」と伝えた。するとくつくつと笑った彼は、満足そうな顔をして寝台を降りていく。
「ゆっくり休んでくれ」
低音の声を耳元で聞かせて私を悶えさせると、彼は颯爽と部屋を出ていった。
今となっては謎だらけだった『愛することはない』宣言。翌朝撤回されたけど、私がふしだらな女だと思われていたなら、仕方がない。
「そうだ。君は男を魅了してやまない子爵令嬢で、閨の技術も高いと聞いていた」
「それは姉のことです!」
なんてことだろう! アミフェ姉さまと勘違いされていたなんて。
でも、お父様であるベルカ子爵に娘が二人いることは知られていない。正妻の娘は私だから、王宮に届けられているのは私だけだ。
それに、王都にいても私はひきこもってばかりで社交界に顔をだしていない。アミフェ姉さまばかりが目立ってしまい、妹の私に気がつく人は少なかったから……勘違いされたのだろう。今更だけど。
「それで、ベルカ子爵令嬢あてに結婚の申し込みをされたのですか?」
「そうだ。百戦錬磨の女性であれば……この俺の勃起不全をどうにかできると思われデイモンドに仕組まれた」
勃起不全。
……勃起不全?
それって、男性器が勃ちあがらない症状だったような……。
ちらりと彼の股間を見てしまう。今は自然だけれど、いつもすっごく大きかった。あれで勃起不全だったと言われても、すぐには信じられない。
「本当に?」
「ああ、俺は以前、呪いを受けてから勃起することがなかった。性欲を感じたこともない」
「えっ、では……ルドヴィーク様は童貞で、魔法使い一歩手前だったのですか?」
「くっ」
私の言葉は矢のように彼の心に突き刺さっていた。はっきりと言い過ぎるのも毒になると、アミフェ姉さまからも注意されていたのに。特に童貞の話題は繊細だから要注意よ、って聞いていたのに。
「あっ、ご、ごめんなさいっ! 童貞だなんて、思っていなかったもので……こんなにも、ご立派なものをお持ちですのに、未使用だったんですね」
「だから……なぜ、そのような言葉を……!」
ルドヴィーク様は項垂れるように頭を下げている。貞淑な貴族令嬢が使うことはない、あけすけな言葉を知りすぎているからだろうか。
「あのっ、私も処女でしたので! ルドヴィーク様と同じで未使用でした!」
「君は、もういいから黙ってくれ」
そう言われてしまうと、しゅんとなってしまう。どうやら私は、アミフェ姉さまが身近にいたから恥じらいが足りないようだ。
悲しくなって俯いていると、ルドヴィーク様が私の顔の横にたれる髪を両手でかきあげる。自然と顔が上を向いて、視線が重なった。
「アリーチェ、俺は君とゆっくりと(ねっちりと)普通に愛し合いたい」
「……はい。私もルドヴィーク様をイかせたいです」
「また、そんなことを。……それは例の閨の格言なのか?」
「そうです。男を足だけでイかせるのが真の女道だと、教わりました」
ルドヴィーク様はけげんな顔つきになると、「足だけで?」と呟いた。
「やってみますか?」
「……いや、今はいい」
少しだけ残念そうな顔をして、ルドヴィーク様は口を結んだ。
呪いが解けてから、彼の表情は思っていたよりも豊かでなんだかちょっと……可愛い。
「では、私が元気になったらして差し上げますね」
「うっ……あ、あぁ」
にこにことしていると、ルドヴィーク様は「今は休むんだ」と言って、私を横たわらせて掛布をかける。
「君は……俺が初めてだったのか」
「はい、そうですよ」
そう答えると彼は優しい顔つきになって、私の額にゆっくりと唇で触れた。温かくて、柔らかい感触に心がくすぐられたように嬉しくなる。
「その、初めての時は優しくできただろうか……俺も舞い上がっていたから、君を思いやることもせずあの日は何度もしてしまったが」
「ルドヴィーク様は十分、優しかったです。アレは暴れん坊さんでしたけどね」
くすっと笑うと、彼も穏やかな顔になる。やっぱりカッコよくて好き。
「確かに暴れん坊で、聞き分けのない息子だな。だからアリーチェ、体力が戻った時は……いつか君が言っていたヌカロクをしてもいいだろうか」
「は、はい……はい?」
目の前にいる美麗な顔で甘く囁かれると、身体の奥がキュンとする。でも、ヌカロクって……ヌカロク?
「俺も初めてだから、慣れないが……なるべく、優しくする」
「はいぃ……」
甘さを含んだ低音が耳元で囁かれると、それだけでぞくりとして肌が粟立った。髪を耳にかけながら、顔を近づけたルドヴィーク様の唇がゆっくりと私の唇に触れる。
「んっ」
「楽しみだな」
鳥の羽のようにふわりとキスをして、彼は寝台に上がった。寝台が彼の重みでぐっとへこむと、体制を崩して彼に寄りかかってしまう。
「きゃっ」
ルドヴィーク様の力強い腕が私の身体を包みこみ、黒髪が頬にあたる。背中に回された腕に力を込められ、ぎゅっと抱きしめられた。
「柔らかいな。女性の身体がこんなにもふわふわだとは、知らなかった」
「私も、男性の肌がこんなにも硬いなんて……知りませんでした」
辺境伯として、軍隊を率いる彼は鍛えぬかれた身体を持っている。その力強い感触に、ときめきを感じてしまう。
「淫乱でも構わないと思っていたが……俺が初めてだったとは、嬉しいものだな」
「はい、でもルドヴィーク様も、私だけですよ?」
そっと顔を上げると、美しい顔をした人は「そうだな」と言って頬を緩める。こんな身近なところに美形男性がいては、休むのも休めない。
私は掛布を鼻までかけると「おやすみなさいっ」と伝えた。するとくつくつと笑った彼は、満足そうな顔をして寝台を降りていく。
「ゆっくり休んでくれ」
低音の声を耳元で聞かせて私を悶えさせると、彼は颯爽と部屋を出ていった。
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