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蔦で覆われた身体②
しおりを挟む「まさか……アリーチェか?」
「魔女が、ショタ喰いの魔女がアリーチェ様に魔法蔦の種を飲ませてしまい……気がついた時にはこの姿に」
「アリーチェ……アリーチェ!」
すると口らしきところから、か細い声が聞こえてくる。
「ル……ド……」
「そうだ、俺だ!」
駆け寄ろうとしたところで、騎士たちが俺の身体をおさえこむ。得体のしれないものに、俺が触れるのが危ないと判断したのだろう。
「お前たちっ、放すんだ!」
「いいえ、できません。ルドヴィーク様をお守りするのが第一です」
「何を言うか、俺はアリーチェを守ると約束したからには、彼女を連れて帰る」
二人がかりで抑えられるが、本気を出せば振り切れる。だが、そうする前にゼフィールが口を開いた。
「ルドヴィーク様、いけません! 魔法蔦にうかつに触ると、感染します!」
俺はぐっと顎を引いてゼフィールを睨みつける。
「そんなものは関係ない。そこにいるのはアリーチェだろう」
両隣にいる騎士に「手を離せ」と命じると、俺のまとう覇気に押された彼らはサッと腕を放す。自由になった途端に彼女の元に駆け寄った。緑色の蔦に覆われた身体を抱きしめると、蠢く植物が肌にまとわりつく。だが、それらを手で払っていくと、次第に青白い肌をした顔が現れた。
「アリーチェ、すまない。君をこんな目に会わせてしまって……」
「ルド……さま、だめ……」
「いい、何も話す必要はない」
彼女を安心させるために、額に優しく唇を置く。だめ、だめと言って涙を流す彼女の眦にもキスをして、安心させるように唇を塞いだ。きっと、蔦だらけの身体に不安になっているのだろう。
「愛している、アリーチェ。君がどんな姿でも、俺の愛は変わらないと言っただろう?」
耳元で囁いた途端、彼女の身体についていた蔦がシュウシュウと音をたてて蒸発していく。全身に絡みついていた蔦の一つが苦し気に蠢き、俺の身体にまとわりつこうとする。それらを手で引きちぎると、シュウッと白い蒸気となって霧散していった。
「アリーチェ、無事か?」
蔦で覆われていた身体が次第に元通りとなり、白い肌はもちろんのこと、髪も綺麗なまま、服も元通りになっている。先ほどまでのおぞましい姿からは想像できないほど、美しい肢体が目の前にあらわれた。
「アリーチェ……」
安堵して身体を再び抱き寄せるけれど、彼女はぐったりとして力を抜いていた。すると、ゼフィールが駆け寄ってきて膝をつく。
「ルドヴィーク様!」
「なにが起こったんだ」
「真実の愛です! ルドヴィーク様とアリーチェ殿の、真実の愛がお二人を救ったのです!」
「はっ、何を」
ふざけたことを言うのか、と思っているとアリーチェのまぶたが開き、綺麗な紫の瞳がこちらを見つめる。
「アリーチェ」
名前を呼ぶと、こくりと頷く。血の気が引いてまだ顔が青白いが、触れた先の体温は戻りつつある。だが何かを言おうとした途端、腕の中にいるアリーチェがゴホゴホと咳き込んだ。
「アリーチェ! 大丈夫か? おい、ゼフィール、何か身体を拭くものを持ってこい!」
「はっ、はい」
口を覆うように手をあてた彼女は、ごほっと大きく咳き込んだ。
「はぁ……はぁ……ルド……」
「無理に話すな」
「でも」
急ぎ戻って来たゼフィールから布を受けとり、彼女の身体をいたわるように拭いていく。
服も湿っているため、俺は上着を脱いで身体に被せると、アリーチェは瞬きをして「ありがとう」と力なく囁いた。
「アリーチェ、すまないが少し待っていてくれ。魔女を倒してくる」
ゆっくりと床に下ろすと、騎士に彼女を見ているように伝える。不安そうな目で見上げる彼女の頭を撫で、「すぐに終わらせる」と伝えてゼフィールに命じた。
「魔女のところへ案内しろ。お前の方がこの屋敷に詳しいだろう」
「はっ!」
彼女をこれほどまでに苦しめたあの女を――俺はこのまま野放しにすることはできなかった。
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