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蔦で覆われた身体①
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◆◆◆ 《ルドヴィーク視点》
時は少しさかのぼる。
「ルドヴィーク様、こちらにおられましたか」
「ああ、どうした」
デイモンドが息を切らしながら駆け寄ってくる。子どもの頃は、城の中を走るなと言っていた張本人なのに。今度言ってからかってやろうと思ったところで、意外なことを聞く。
「ゼフィールがようやく帰ってまいりました。ただ、ルドヴィーク様の命で出かけていたと言っておりましたが」
「何? 俺は何も命じていないが……まてよ」
彼に命じたのは、あの怪しげな占い師を城の外に連れていけというのが最後だ。もしかすると、魔女である占い師に取り込まれているかもしれない。
「それで今、彼はどこにいる。俺のところに顔を出せと伝えてくれ」
「なんと! まだルドヴィーク様にお会いしていなかったのですか? アリーチェ様を厩舎に案内すると申したので、任せたのですが」
「デイモンド、どういうことだ」
どうやら、アリーチェと二人で行動しているという。まさか……と思うが、予感は悪い方へ当たる。彼女の護衛をしていた騎士の一人も息を切らしながら走ってきた。
「なにっ、アリーチェが消えた? お前たち、何をしていたんだ!」
騎士によると、ゼフィールが御者をする馬車に乗って移動したところ、破落戸どもが近づいてきた。アリーチェに報告する前に撃退すると、いつの間にか馬車は消え去っていたという。
破落戸どもの口を割らせると、どうやら誰かに金で雇われていた。状況から判断するに、ゼフィールが怪しい。
「まさかと思いましたが、一人は馬車をすぐに追いかけています。轍もあったので、すぐに居場所がわかると思います」
「そいつからの目印はあるのか」
「はい、発光石を印として落としているはずです。それを辿れば追いつけるかと」
「わかった。俺がでる。お前たちも準備してついてこい」
「はっ」
俺はすぐに軍服に着替えると、腰に剣を佩く。厚底のブーツに履き替え、黒の指ぬきの手袋をはめると、髪を後ろで一つにくくった。
「相手は魔女が絡んでいる。くれぐれも慎重に行動してくれ。万一仲間がおかしな行動をしたら、気絶させるからそのつもりでいろ」
精鋭の騎士たちを従えると、俺はあぶみに足をかけ黒馬にまたがった。
口元を黒布で覆い、風を避ける。出来る限り早く駆けさせながら、所々に置かれた発光石をたどっていく。すると最後にたどり着いたのは、うっそうとした蔓が絡まり、いかにも怪しげな屋敷だった。
「馬車があるな」
「はい、バルシュ家の家紋がはいっております」
「やはり、ゼフィールか……」
あいつはアリーチェを妻にすることを最後まで反対していた。そこを魔女につけいられたのだろう。魅了の術は心の隙間を狙われる。
一緒にやってきた騎士に周囲を見張らせ、少人数で屋敷に乗り込んでいく。高い塀を乗り越え、屋敷の庭に入るが人のいる気配がしない。だが……
——アリーチェの名前を呼んでいる?
か細い声が聞こえてくる。周囲を見回すと、どうやら地下にある部屋の灯り取りの窓から声が聞こえるようだ。
「ここか?」
地にはいつくばって中を確認すると、ゼフィールがいる。どうやら彼は、傍らにある緑色の蔦だらけの塊に話しかけているようだった。
「ゼフィール!」
名前を呼んで窓を叩くと、すぐにこちらを向いた。目は濁っていないところを見ると、アリーチェが術を解いたのかもしれない。だが、彼女の姿が見えないことに、嫌な予感がしてたまらない。
「窓を割って入るぞ」
「はっ」
どうやらゼフィールも俺がいることに気がつき、窓から離れて立っている。剣で切り込みをいれたところで、身体を押しつけるようにして窓を壊した。
ガチャン、と大きな音をたてて窓が割る。俺はそこから身を滑らすようにして室内に入ると、すぐにゼフィールが両膝で跪いて頭を下げた。
「ルドヴィーク様、申し訳ありませんっ! アリーチェ様が……」
言葉を失くした彼の視線の先には、緑色の蔦に覆われた塊ーーよく見ると、人型をしている。
時は少しさかのぼる。
「ルドヴィーク様、こちらにおられましたか」
「ああ、どうした」
デイモンドが息を切らしながら駆け寄ってくる。子どもの頃は、城の中を走るなと言っていた張本人なのに。今度言ってからかってやろうと思ったところで、意外なことを聞く。
「ゼフィールがようやく帰ってまいりました。ただ、ルドヴィーク様の命で出かけていたと言っておりましたが」
「何? 俺は何も命じていないが……まてよ」
彼に命じたのは、あの怪しげな占い師を城の外に連れていけというのが最後だ。もしかすると、魔女である占い師に取り込まれているかもしれない。
「それで今、彼はどこにいる。俺のところに顔を出せと伝えてくれ」
「なんと! まだルドヴィーク様にお会いしていなかったのですか? アリーチェ様を厩舎に案内すると申したので、任せたのですが」
「デイモンド、どういうことだ」
どうやら、アリーチェと二人で行動しているという。まさか……と思うが、予感は悪い方へ当たる。彼女の護衛をしていた騎士の一人も息を切らしながら走ってきた。
「なにっ、アリーチェが消えた? お前たち、何をしていたんだ!」
騎士によると、ゼフィールが御者をする馬車に乗って移動したところ、破落戸どもが近づいてきた。アリーチェに報告する前に撃退すると、いつの間にか馬車は消え去っていたという。
破落戸どもの口を割らせると、どうやら誰かに金で雇われていた。状況から判断するに、ゼフィールが怪しい。
「まさかと思いましたが、一人は馬車をすぐに追いかけています。轍もあったので、すぐに居場所がわかると思います」
「そいつからの目印はあるのか」
「はい、発光石を印として落としているはずです。それを辿れば追いつけるかと」
「わかった。俺がでる。お前たちも準備してついてこい」
「はっ」
俺はすぐに軍服に着替えると、腰に剣を佩く。厚底のブーツに履き替え、黒の指ぬきの手袋をはめると、髪を後ろで一つにくくった。
「相手は魔女が絡んでいる。くれぐれも慎重に行動してくれ。万一仲間がおかしな行動をしたら、気絶させるからそのつもりでいろ」
精鋭の騎士たちを従えると、俺はあぶみに足をかけ黒馬にまたがった。
口元を黒布で覆い、風を避ける。出来る限り早く駆けさせながら、所々に置かれた発光石をたどっていく。すると最後にたどり着いたのは、うっそうとした蔓が絡まり、いかにも怪しげな屋敷だった。
「馬車があるな」
「はい、バルシュ家の家紋がはいっております」
「やはり、ゼフィールか……」
あいつはアリーチェを妻にすることを最後まで反対していた。そこを魔女につけいられたのだろう。魅了の術は心の隙間を狙われる。
一緒にやってきた騎士に周囲を見張らせ、少人数で屋敷に乗り込んでいく。高い塀を乗り越え、屋敷の庭に入るが人のいる気配がしない。だが……
——アリーチェの名前を呼んでいる?
か細い声が聞こえてくる。周囲を見回すと、どうやら地下にある部屋の灯り取りの窓から声が聞こえるようだ。
「ここか?」
地にはいつくばって中を確認すると、ゼフィールがいる。どうやら彼は、傍らにある緑色の蔦だらけの塊に話しかけているようだった。
「ゼフィール!」
名前を呼んで窓を叩くと、すぐにこちらを向いた。目は濁っていないところを見ると、アリーチェが術を解いたのかもしれない。だが、彼女の姿が見えないことに、嫌な予感がしてたまらない。
「窓を割って入るぞ」
「はっ」
どうやらゼフィールも俺がいることに気がつき、窓から離れて立っている。剣で切り込みをいれたところで、身体を押しつけるようにして窓を壊した。
ガチャン、と大きな音をたてて窓が割る。俺はそこから身を滑らすようにして室内に入ると、すぐにゼフィールが両膝で跪いて頭を下げた。
「ルドヴィーク様、申し訳ありませんっ! アリーチェ様が……」
言葉を失くした彼の視線の先には、緑色の蔦に覆われた塊ーーよく見ると、人型をしている。
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