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魔法蔦の種①
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「ゼフィール、あなたはルドヴィーク様を裏切ったの? 厩舎なんてどこにもないわ」
「……違います、これがあの方の為になるのです」
「なぜ? 私をこんなところに連れてくるなんて、裏切り以外の何物でもないのに!」
灯りの少ない屋敷の中に入ると、ゼフィールは私を地下にある部屋へ連れて行った。灯り取りの窓がかろうじて地上にある、湿気の多い部屋だ。抵抗しても、彼の手から逃れられない。
ゼフィールは私を部屋の中に押し込むと、出ていこうとする。
「待って! どうして私がここにいると、ルドヴィーク様のためになるの?」
「そんなこと……淫乱なあなたでしたら、おわかりでしょう。今も他の男の種を宿しているかもしれないのに、汚らわしい」
「どうして? 私はルドヴィーク様以外の男性なんて、知らないのに」
「嘘はいりません。私はあの方には、初恋の清い令嬢と結ばれて欲しいだけです。今でも彼女から貰ったハンカチを、ルドヴィーク様は大切にしていらっしゃる。その方と結ばれるのが正しい姿です」
うつろな目をした彼は、私をさげすむ様に見下ろした。瞳の奥が濃くなっている。
「そんなの……正しくなんかない。ルドヴィーク様に愛されているのは、私だもの」
手を胸に当てて、彼に伝える。幻想のような初恋がいいなんて、とても思えない。
「なぜそう言い切れるのです? あなたのような……乱れた女性が愛されるなど」
「乱れているかもしれないけど、私が彼を愛しているからわかる。彼は私のことを、とても愛しているって」
断言するけれど、ゼフィールはその言葉さえフッと笑い流してしまう。そのらしからぬ様子に、私は眉を寄せた。
もしかすると、呪いか何かに操られているのかもしれない。そうでなければ、言動が怪しすぎる。ルドヴィーク様に信頼されている人が、そんなに簡単に裏切るとは思えなかった。
黒い靄が見えて、それを払うことができれば。そう思って目を凝らすけれど、彼の身体からは何も出ていない。靄がないのであれば、やはり自分の意思なのだろうか――
「あら、騒々しいわね。まず初めにそのお口を塞いじゃおうかしら」
思わぬところでカツン、カツンと高いヒールの音を響かせ部屋に来たのは、身体の線がはっきりとわかる真っ赤な衣装を身に着けた占い師だった。
「あなたは――」
「お元気だったかしら? また会いましょうって、挨拶したわよね」
真っ赤な口紅をつけた口角が上がる。爪の先まで赤く染めた彼女は、妖艶に微笑んだ。
「魔女殿、お約束通りこの女をお連れしました」
「そう、ご苦労様」
ゼフィールは胸に手をあてて深く頭を下げている。魔女と呼ばれた占い師は、頭を上げたゼフィールの顎を持ち上げると、聞き取れない言葉を話し始めた。
するとゼフィールの口の中に、黒い靄が入っていく。やはり彼は操られているのだろう、目の色が黒く染まっていく。見えなかった彼の中の黒い靄が立ち上っていた。
「彼に何をしたの? ゼフィールはルドヴィーク様の大切な部下なのよ、返して!」
「あら、こんな状況になってもまだ抵抗する元気があるの? ふふっ、そうでなければ面白くないわね」
彼女は私に近づくと、片手を掲げ手の先から黒い靄を放出させる。何かを呟いている間、私は逃げようとして後ずさるけれど、入口にはゼフィールが立っていた。——逃げられない。
「いっ、いやっ」
靄は私を取り囲むようにして襲ってきた。いくら手を振り払っても次から次へと増えきりがない。ついには縄で縛られたように身体が動かなくなる。顔だけは自由だけれど、それは目的があった。
魔女は私に近づくと、顎を持ちあげ視線を合わせニタリと笑う。
「……違います、これがあの方の為になるのです」
「なぜ? 私をこんなところに連れてくるなんて、裏切り以外の何物でもないのに!」
灯りの少ない屋敷の中に入ると、ゼフィールは私を地下にある部屋へ連れて行った。灯り取りの窓がかろうじて地上にある、湿気の多い部屋だ。抵抗しても、彼の手から逃れられない。
ゼフィールは私を部屋の中に押し込むと、出ていこうとする。
「待って! どうして私がここにいると、ルドヴィーク様のためになるの?」
「そんなこと……淫乱なあなたでしたら、おわかりでしょう。今も他の男の種を宿しているかもしれないのに、汚らわしい」
「どうして? 私はルドヴィーク様以外の男性なんて、知らないのに」
「嘘はいりません。私はあの方には、初恋の清い令嬢と結ばれて欲しいだけです。今でも彼女から貰ったハンカチを、ルドヴィーク様は大切にしていらっしゃる。その方と結ばれるのが正しい姿です」
うつろな目をした彼は、私をさげすむ様に見下ろした。瞳の奥が濃くなっている。
「そんなの……正しくなんかない。ルドヴィーク様に愛されているのは、私だもの」
手を胸に当てて、彼に伝える。幻想のような初恋がいいなんて、とても思えない。
「なぜそう言い切れるのです? あなたのような……乱れた女性が愛されるなど」
「乱れているかもしれないけど、私が彼を愛しているからわかる。彼は私のことを、とても愛しているって」
断言するけれど、ゼフィールはその言葉さえフッと笑い流してしまう。そのらしからぬ様子に、私は眉を寄せた。
もしかすると、呪いか何かに操られているのかもしれない。そうでなければ、言動が怪しすぎる。ルドヴィーク様に信頼されている人が、そんなに簡単に裏切るとは思えなかった。
黒い靄が見えて、それを払うことができれば。そう思って目を凝らすけれど、彼の身体からは何も出ていない。靄がないのであれば、やはり自分の意思なのだろうか――
「あら、騒々しいわね。まず初めにそのお口を塞いじゃおうかしら」
思わぬところでカツン、カツンと高いヒールの音を響かせ部屋に来たのは、身体の線がはっきりとわかる真っ赤な衣装を身に着けた占い師だった。
「あなたは――」
「お元気だったかしら? また会いましょうって、挨拶したわよね」
真っ赤な口紅をつけた口角が上がる。爪の先まで赤く染めた彼女は、妖艶に微笑んだ。
「魔女殿、お約束通りこの女をお連れしました」
「そう、ご苦労様」
ゼフィールは胸に手をあてて深く頭を下げている。魔女と呼ばれた占い師は、頭を上げたゼフィールの顎を持ち上げると、聞き取れない言葉を話し始めた。
するとゼフィールの口の中に、黒い靄が入っていく。やはり彼は操られているのだろう、目の色が黒く染まっていく。見えなかった彼の中の黒い靄が立ち上っていた。
「彼に何をしたの? ゼフィールはルドヴィーク様の大切な部下なのよ、返して!」
「あら、こんな状況になってもまだ抵抗する元気があるの? ふふっ、そうでなければ面白くないわね」
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「いっ、いやっ」
靄は私を取り囲むようにして襲ってきた。いくら手を振り払っても次から次へと増えきりがない。ついには縄で縛られたように身体が動かなくなる。顔だけは自由だけれど、それは目的があった。
魔女は私に近づくと、顎を持ちあげ視線を合わせニタリと笑う。
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