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俺の天使①

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 城を出ると辺境軍の兵士たちが訓練を行っている。今日は特に予定はなかったが、朝の鍛錬をしていないため身体がなまっている。少し動かしておこうと隊長に声をかけた。

「皆の調子はどうだ」
「はっ! 今朝も絶好調で……あれ?」

 隊長は口ひげを生やした口を開けてこちらを見ている。どうしたものかと首をかしげると、近寄りじろじろと俺を眺めはじめた。

「ルドヴィーク様……のお顔が、普通に見えます」
「俺の顔は普通ではなかったのか?」
「いえ、そうではなく……こう、普段より威圧感が少ないといいますか」

 隊長は鋭く、普段からはっきりとした物言いをするヤツだが、今日はどこかもどかしい。それには構うことなく言い放つ。

「そうか、とりあえず身体を動かしたいから、誰か手合わせをする相手はいないか」
「はっ、活きのいい若手がおります」
「よし、では訓練用の剣を持って来てくれ」

 俺はシャツの上に軍服の上着を羽織ると、愛用している皮手袋をはめる。隊長から刃を潰した剣を渡され、それを上下に振り下ろす。少し重いくらいが丁度いい。

「よし、正面からでも、どこからでもいいぞ」
「はじめっ」

 隊長の合図で若手の兵士と向き合う。領主である俺を前にしてもギラギラとした目を向ける、なかなか骨のあるやつのようだ。

「……」

 じりじりとにじり寄りながらも、打ち込んでくることはない。俺の構えの隙を狙っているようだが、これでは何も始まらない。

「どうした、打ち込んでこなければこちらから行くぞ」

 片手を剣から放し、招くように指を曲げる。そうやって煽ると簡単に眼を釣り上げた。

「うぉおっ!」
「よしっ」

 足を踏み込んでくるのをサッと避ける。首のうしろが空いているため、そこに手刀を軽く充てる。

「後ろががら空きだぞ」
「なにをっ!」

 すぐに体制を整え向きを変えると、ブンッと剣を大きく水平に切り込んだ。こいつは筋がいい。だが、一歩踏み込みが甘いため剣先が俺に触れることはない。

「まだまだ」

 刃を返してきたところで、それを上から叩き落すように打ち払う。ガキンッと刃と刃がぶつかり、相手は衝撃で剣を手から離してしまった。

 ガラン、と音をたてて地に落ちる。かなり大ぶりの剣だったが、使いこなすには力が足りないようだ。

「……ありがとう、ございましたっ」

 兵士はその場に立つと悔しそうに歯を食いしばりながら、頭を下げる。俺は肩をぽんと叩くと、「もっと力をつけるんだな」と言い次の相手を招く。

 その後、三人ほど相手をするがいつもより身体が軽い。力がみなぎり、疲れることなどまるでない。

「ルドヴィーク様、今日は大変調子が良いようですね」
「そうか。お前もそう見えるのか」
「はっ、いつもより速さが違います」

 自分でも気がついていたが、やはりキレが違う。いつもより大型の剣も軽々と持てる。

「今日は調子がいい……いや、それ以上だな。筋肉の張りが違う」
「ははっ、ルドヴィーク様も男ですな。昨日結婚されたばかりですから、たぎるのではないですか?」
「なっ! お前!」

 俺よりも十も年上の隊長はがははと笑いながら俺の肩を叩く。これまで女嫌いで有名だったにもかかわらず、結婚したことは知れ渡っている。

「聞きましたよ、妖精のようにかわいらしい奥様を娶られたと。まるで花の精のようだったと、妻が申しておりました」
「そうか……お前の妻は、侍女長であったな」

 侍女長であれば、結婚式にも参列していただろう。アリーチェの可憐なドレス姿を見ていたことになる。顔はベールで隠していたが、清楚な雰囲気は周囲に伝わっていた。

「おめでとうございます。これでお世継ぎができれば、このバルシュ領も一安心ですな」
「なっ……ま、まぁ、そうだな」

 照れくさくなり頭をかく。これまでこうした話になると、俺は不機嫌になるばかりで、取り付く島もなかった。呪いのために勃起しなかったのだが、それを知る者はいない。

 だが、今は絶好調に勃ち上がるのだ。俺に敵はない。

 だが……子どもか……それに俺は、とうとう童貞ではなくなるのだな……

 心の底から嬉しさが込み上げてくる。できればすぐにアリーチェを探し出し、寝室に連れ込みたいがまだ日が高い。明るいところでの初めては嫌だと言っていたから、今夜まで待たなくては。

「よし、俺はそろそろ上がるぞ。お前たちは、続けて訓練に励むように」
「はっ!」

 向きを変えようとするが、隊長がじとっとした目でこちらを見ている。

「どうした?」
「いえ、ルドヴィーク様もようやく大人の男になられたのかと思うと……今夜も励まれてください」
「なっ、お前!」

 男同士の会話などくだらないが、俺の筆おろしを喜んでいるのであれば、仕方がない。隊長とは俺が呪いを受ける前からの長い付き合いだから、気安くもなる。

「ま、まぁ……せいぜい励むことにする。明日の朝も、鍛錬には来ないと思っておけ」
「はっ!」

 敬礼しているが、口の端を上げている。どこか面白くないが、これも新婚だから仕方がない。何もなかったのであれば、叱りつけただろうが今の俺はあの憧れの『パイズリ』を知った男だ。

 どこか誇らしげに顎を上げ、訓練場を去っていく。次に目指すのは託児所だった。
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