22 / 64
俺の天使①
しおりを挟む
城を出ると辺境軍の兵士たちが訓練を行っている。今日は特に予定はなかったが、朝の鍛錬をしていないため身体がなまっている。少し動かしておこうと隊長に声をかけた。
「皆の調子はどうだ」
「はっ! 今朝も絶好調で……あれ?」
隊長は口ひげを生やした口を開けてこちらを見ている。どうしたものかと首をかしげると、近寄りじろじろと俺を眺めはじめた。
「ルドヴィーク様……のお顔が、普通に見えます」
「俺の顔は普通ではなかったのか?」
「いえ、そうではなく……こう、普段より威圧感が少ないといいますか」
隊長は鋭く、普段からはっきりとした物言いをするヤツだが、今日はどこかもどかしい。それには構うことなく言い放つ。
「そうか、とりあえず身体を動かしたいから、誰か手合わせをする相手はいないか」
「はっ、活きのいい若手がおります」
「よし、では訓練用の剣を持って来てくれ」
俺はシャツの上に軍服の上着を羽織ると、愛用している皮手袋をはめる。隊長から刃を潰した剣を渡され、それを上下に振り下ろす。少し重いくらいが丁度いい。
「よし、正面からでも、どこからでもいいぞ」
「はじめっ」
隊長の合図で若手の兵士と向き合う。領主である俺を前にしてもギラギラとした目を向ける、なかなか骨のあるやつのようだ。
「……」
じりじりとにじり寄りながらも、打ち込んでくることはない。俺の構えの隙を狙っているようだが、これでは何も始まらない。
「どうした、打ち込んでこなければこちらから行くぞ」
片手を剣から放し、招くように指を曲げる。そうやって煽ると簡単に眼を釣り上げた。
「うぉおっ!」
「よしっ」
足を踏み込んでくるのをサッと避ける。首のうしろが空いているため、そこに手刀を軽く充てる。
「後ろががら空きだぞ」
「なにをっ!」
すぐに体制を整え向きを変えると、ブンッと剣を大きく水平に切り込んだ。こいつは筋がいい。だが、一歩踏み込みが甘いため剣先が俺に触れることはない。
「まだまだ」
刃を返してきたところで、それを上から叩き落すように打ち払う。ガキンッと刃と刃がぶつかり、相手は衝撃で剣を手から離してしまった。
ガラン、と音をたてて地に落ちる。かなり大ぶりの剣だったが、使いこなすには力が足りないようだ。
「……ありがとう、ございましたっ」
兵士はその場に立つと悔しそうに歯を食いしばりながら、頭を下げる。俺は肩をぽんと叩くと、「もっと力をつけるんだな」と言い次の相手を招く。
その後、三人ほど相手をするがいつもより身体が軽い。力がみなぎり、疲れることなどまるでない。
「ルドヴィーク様、今日は大変調子が良いようですね」
「そうか。お前もそう見えるのか」
「はっ、いつもより速さが違います」
自分でも気がついていたが、やはりキレが違う。いつもより大型の剣も軽々と持てる。
「今日は調子がいい……いや、それ以上だな。筋肉の張りが違う」
「ははっ、ルドヴィーク様も男ですな。昨日結婚されたばかりですから、漲るのではないですか?」
「なっ! お前!」
俺よりも十も年上の隊長はがははと笑いながら俺の肩を叩く。これまで女嫌いで有名だったにもかかわらず、結婚したことは知れ渡っている。
「聞きましたよ、妖精のようにかわいらしい奥様を娶られたと。まるで花の精のようだったと、妻が申しておりました」
「そうか……お前の妻は、侍女長であったな」
侍女長であれば、結婚式にも参列していただろう。アリーチェの可憐なドレス姿を見ていたことになる。顔はベールで隠していたが、清楚な雰囲気は周囲に伝わっていた。
「おめでとうございます。これでお世継ぎができれば、このバルシュ領も一安心ですな」
「なっ……ま、まぁ、そうだな」
照れくさくなり頭をかく。これまでこうした話になると、俺は不機嫌になるばかりで、取り付く島もなかった。呪いのために勃起しなかったのだが、それを知る者はいない。
だが、今は絶好調に勃ち上がるのだ。俺に敵はない。
だが……子どもか……それに俺は、とうとう童貞ではなくなるのだな……
心の底から嬉しさが込み上げてくる。できればすぐにアリーチェを探し出し、寝室に連れ込みたいがまだ日が高い。明るいところでの初めては嫌だと言っていたから、今夜まで待たなくては。
「よし、俺はそろそろ上がるぞ。お前たちは、続けて訓練に励むように」
「はっ!」
向きを変えようとするが、隊長がじとっとした目でこちらを見ている。
「どうした?」
「いえ、ルドヴィーク様もようやく大人の男になられたのかと思うと……今夜も励まれてください」
「なっ、お前!」
男同士の会話などくだらないが、俺の筆おろしを喜んでいるのであれば、仕方がない。隊長とは俺が呪いを受ける前からの長い付き合いだから、気安くもなる。
「ま、まぁ……せいぜい励むことにする。明日の朝も、鍛錬には来ないと思っておけ」
「はっ!」
敬礼しているが、口の端を上げている。どこか面白くないが、これも新婚だから仕方がない。何もなかったのであれば、叱りつけただろうが今の俺はあの憧れの『パイズリ』を知った男だ。
どこか誇らしげに顎を上げ、訓練場を去っていく。次に目指すのは託児所だった。
「皆の調子はどうだ」
「はっ! 今朝も絶好調で……あれ?」
隊長は口ひげを生やした口を開けてこちらを見ている。どうしたものかと首をかしげると、近寄りじろじろと俺を眺めはじめた。
「ルドヴィーク様……のお顔が、普通に見えます」
「俺の顔は普通ではなかったのか?」
「いえ、そうではなく……こう、普段より威圧感が少ないといいますか」
隊長は鋭く、普段からはっきりとした物言いをするヤツだが、今日はどこかもどかしい。それには構うことなく言い放つ。
「そうか、とりあえず身体を動かしたいから、誰か手合わせをする相手はいないか」
「はっ、活きのいい若手がおります」
「よし、では訓練用の剣を持って来てくれ」
俺はシャツの上に軍服の上着を羽織ると、愛用している皮手袋をはめる。隊長から刃を潰した剣を渡され、それを上下に振り下ろす。少し重いくらいが丁度いい。
「よし、正面からでも、どこからでもいいぞ」
「はじめっ」
隊長の合図で若手の兵士と向き合う。領主である俺を前にしてもギラギラとした目を向ける、なかなか骨のあるやつのようだ。
「……」
じりじりとにじり寄りながらも、打ち込んでくることはない。俺の構えの隙を狙っているようだが、これでは何も始まらない。
「どうした、打ち込んでこなければこちらから行くぞ」
片手を剣から放し、招くように指を曲げる。そうやって煽ると簡単に眼を釣り上げた。
「うぉおっ!」
「よしっ」
足を踏み込んでくるのをサッと避ける。首のうしろが空いているため、そこに手刀を軽く充てる。
「後ろががら空きだぞ」
「なにをっ!」
すぐに体制を整え向きを変えると、ブンッと剣を大きく水平に切り込んだ。こいつは筋がいい。だが、一歩踏み込みが甘いため剣先が俺に触れることはない。
「まだまだ」
刃を返してきたところで、それを上から叩き落すように打ち払う。ガキンッと刃と刃がぶつかり、相手は衝撃で剣を手から離してしまった。
ガラン、と音をたてて地に落ちる。かなり大ぶりの剣だったが、使いこなすには力が足りないようだ。
「……ありがとう、ございましたっ」
兵士はその場に立つと悔しそうに歯を食いしばりながら、頭を下げる。俺は肩をぽんと叩くと、「もっと力をつけるんだな」と言い次の相手を招く。
その後、三人ほど相手をするがいつもより身体が軽い。力がみなぎり、疲れることなどまるでない。
「ルドヴィーク様、今日は大変調子が良いようですね」
「そうか。お前もそう見えるのか」
「はっ、いつもより速さが違います」
自分でも気がついていたが、やはりキレが違う。いつもより大型の剣も軽々と持てる。
「今日は調子がいい……いや、それ以上だな。筋肉の張りが違う」
「ははっ、ルドヴィーク様も男ですな。昨日結婚されたばかりですから、漲るのではないですか?」
「なっ! お前!」
俺よりも十も年上の隊長はがははと笑いながら俺の肩を叩く。これまで女嫌いで有名だったにもかかわらず、結婚したことは知れ渡っている。
「聞きましたよ、妖精のようにかわいらしい奥様を娶られたと。まるで花の精のようだったと、妻が申しておりました」
「そうか……お前の妻は、侍女長であったな」
侍女長であれば、結婚式にも参列していただろう。アリーチェの可憐なドレス姿を見ていたことになる。顔はベールで隠していたが、清楚な雰囲気は周囲に伝わっていた。
「おめでとうございます。これでお世継ぎができれば、このバルシュ領も一安心ですな」
「なっ……ま、まぁ、そうだな」
照れくさくなり頭をかく。これまでこうした話になると、俺は不機嫌になるばかりで、取り付く島もなかった。呪いのために勃起しなかったのだが、それを知る者はいない。
だが、今は絶好調に勃ち上がるのだ。俺に敵はない。
だが……子どもか……それに俺は、とうとう童貞ではなくなるのだな……
心の底から嬉しさが込み上げてくる。できればすぐにアリーチェを探し出し、寝室に連れ込みたいがまだ日が高い。明るいところでの初めては嫌だと言っていたから、今夜まで待たなくては。
「よし、俺はそろそろ上がるぞ。お前たちは、続けて訓練に励むように」
「はっ!」
向きを変えようとするが、隊長がじとっとした目でこちらを見ている。
「どうした?」
「いえ、ルドヴィーク様もようやく大人の男になられたのかと思うと……今夜も励まれてください」
「なっ、お前!」
男同士の会話などくだらないが、俺の筆おろしを喜んでいるのであれば、仕方がない。隊長とは俺が呪いを受ける前からの長い付き合いだから、気安くもなる。
「ま、まぁ……せいぜい励むことにする。明日の朝も、鍛錬には来ないと思っておけ」
「はっ!」
敬礼しているが、口の端を上げている。どこか面白くないが、これも新婚だから仕方がない。何もなかったのであれば、叱りつけただろうが今の俺はあの憧れの『パイズリ』を知った男だ。
どこか誇らしげに顎を上げ、訓練場を去っていく。次に目指すのは託児所だった。
171
お気に入りに追加
2,705
あなたにおすすめの小説
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
【R18】ギャフンと言わせたかっただけなのに!
季邑 えり
恋愛
幼い頃、一緒に育ったフェイが騎士になって戻ってきた。私の後ろをついて歩いていた男の子が、強くなって、カッコよくなって帰ってきたから面白くない。
彼をどうにかしてギャフンと言わせたい。
いろいろ試してみるアホ子のメルティと、それを利用してぱくりと頂いてしまうフェイのお話。
【R18】兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
季邑 えり
恋愛
幼くして両親を亡くした雪乃は、遠縁で幼馴染の清隆と結婚する。だが、貧しさ故に清隆は兵士となって村を出てしまう。
待っていろと言われて三年。ようやく帰って来る彼は、旧藩主の娘に気に入られ、村のために彼女と祝言を挙げることになったという。
雪乃は村長から別れるように説得されるが、諦めきれず機織りをしながら待っていた。ようやく決心して村を出ようとすると村長の息子に襲われかけ――
*和風、ほんわり大正時代をイメージした作品です。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
沈黙の護衛騎士と盲目の聖女
季邑 えり
恋愛
先見の聖女と呼ばれるユリアナのところに護衛騎士が来た。彼は喋ることができず、鈴の音で返事をする。目の見えないユリアナは次第に彼に心を開くようになり、二人は穏やかな日々を過ごす。
だが約束の十日間が迫った頃、ユリアナは彼の手に触れた瞬間に先見をする。彼の正体はユリアナが目の光を失う代償を払って守った、かつて婚約する寸前であった第二王子、――レオナルドだった。
愛する人を救った代償に盲目となった令嬢と、彼女を犠牲にしたことを後悔しながらも一途に愛し続ける王子の純愛物語。
【R18】英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
季邑 えり
恋愛
とうとうヴィクターが帰って来る——シャーロットは橙色の髪をした初恋の騎士を待っていた。
『どうしても、手に入れたいものがある』そう言ってヴィクターはケンドリッチを離れたが、シャーロットは、別れ際に言った『手に入れたいもの』が何かを知らない。
ヴィクターは敵国の将を打ち取った英雄となり、戦勝パレードのために帰って来る。それも皇帝の娘である皇女を連れて。——危険を冒してまで手に入れた、英雄の婚約者を連れて。
幼馴染の騎士 × 辺境の令嬢
二人が待ちわびていたものは何なのか
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる