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妻にはもう既に負けている②

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◆◆◆

「ルドヴィーク様、お食事ですか?」
「ああ、簡単なものでいいから用意してくれ」

 ドサッと食堂のイスに腰かけると、デイモンドが料理長へ目配せをする。この城はいつ敵に攻められ出陣してもいいように、食事を切らしたことはない。

「ルドヴィーク様、昨夜はお疲れになりましたか?」
「ああ、今回はお前にお礼を言わないとな」
「それはそれは」

 デイモンドが見つけてくれなければ、あれほどの妻を娶ることはできなかった。可愛らしい容姿をしているのに狂暴なほど魅力的なおっぱいをしている。——最高だ。

「ワインをお持ちしましょうか」
「そうだな、お前も一杯やろう、前祝いだ」

 まだ最後まで貫通していないがそれも時間の問題だ。デイモンドの求めて止まない子づくりを、今の自分であれば存分なくできる。

「はて……前祝いとは? もしや、もうお子が……!」
「おい、デイモンド、それは流石に早すぎる。今もう妊娠していれば、厄介なことになる」

 アリーチェは可愛らしい容姿をしているのに、これまでの男性遍歴はもの凄い。過去は気にしないとしても、これからのことは気にしなければいけない。

「契約を見直さないといけないな」
「はて、契約とは? ルドヴィーク様のご用意されていたものでしょうか」
「ああ、そうだ」

 デイモンドと話しているうちに、ローストした鴨肉にベリーのソースをかけたものが運ばれてくる。温められた肉が香ばしい匂いを放ち、赤いソースが彩を添えていた。

 同時に赤ワインがグラスに二つ用意される。

「デイモンド、アリーチェを見つけ出してくれて感謝する。乾杯だ」
「はい、ありがたく頂戴いたします」

 グラスを掲げてそれを一気に飲み干した。今日は気分がとてもいい。

「ルドヴィーク様も、これからが勝負ですね。性豪と戦って勝つために、精のつくものをお食べください」
「うぐっ」

 性豪と聞き、食べようとしていた肉が喉に詰まる。一体だれが、どうやって戦うというのか。

「念のために確認するが、それはアリーチェのことなのか?」
「はい、今朝も朝食の際に教えてくださいました。このデイモンド、このように破廉恥なことをルドヴィーク様の奥様から聞くことができるとは、夢のようで……ううっ」
「まて、デイモンド。一体何を聞いたのだ」

 もしかしてもしかすると、男のロマンが詰まった『パイズリ』をしてもらったことを聞いたのか?

 だが、あれは最高だった……ではない!

「何をと言われましても、奥様は奥ゆかしい方でございますので……」
「いや、だから何を話したのかを教えてくれ」
「これから夫婦になるので、がんばりたいと申されていました。ですので、奥様の手練手管に負けることなく、夫としての威厳を保てるようにですね」

 デイモンドは拳を握りしめて力説するが、そのことに関してはもう結果が見えている。俺はワインを継ぎ足すとぼそりと言った。

「……心配するな、妻にはもう既に負けている」

 アリーチェは完璧だ。あのおっぱいの気持ち良さに既に陥落している。勝てる気がしない。

「いえいえ、ルドヴィーク様。性技はこれからでございます。ルドヴィーク様の体力と気力と器用さを駆使すれば、必ずや奥様の方から求められますぞ」
「アリーチェから……求められる……それはいいな」

 妄想の中ではアリーチェが裸となり、腰をもじもじしながら上目遣いで「もう待てないの、れて」とおねだりしている。

 そんな未来が来るのであれば……なんて素晴らしい!

 世界がバラ色に見えてくる。どれだけ勃とうが、受け止めてくれる愛妻がいるとは、なんと素晴らしいことか!

 感激している一方で、アリーチェの姿を探すが気配がしない。まだ城内の案内もしていないから、午後から一緒に回るのもいいかもしれない。

「そういえば、アリーチェはどこにいる?」
「奥様でしたら、城内にあります託児所に行かれました」
「託児所だと?」

 この城で働く者は、騎士も含めるとかなりの数になる。中には子育て中の夫婦も多いため、仕事をしている間は気兼ねなく働けるよう、託児所を用意してあった。

「はい、ルドヴィーク様がお呼びしているとお伝えしましょうか?」
「いや……それはいい。少し散歩してくる」

 ダイニングの席を立つと、託児所のある場所を確認する。子どもに顔を見られると、これまでは泣きだされてしまうので容易には近づけなかった。しかし、股間の呪いが解けた今、顔の呪いも解けているのか確認するには、子どもに会うのが手っ取り早い。

 先ほどから時折、使用人たちに顔を凝視されているが、完全に解けたのであれば子どもは怖がらないだろう。

「承知いたしました」

 デイモンドに改めて礼を伝え、託児所に向かう。靴音は羽のように軽かった。
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