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呪われた美少年②
しおりを挟む「デイモンド、どのみち俺の顔を見れば逃げるのだから、やはり適当に伝えて帰って貰え」
「それはいけません! 今度のご令嬢は普通とは違うはずですから、初夜だけでもお過ごしください」
「初夜だけとは……お前は、何を言っているのか自覚しているのか?」
「今度のご令嬢は、どんな男性も堕ちると噂の魅力的な女性です。坊ちゃんも共に一夜を過ごして下されば、必ずや子づくりができるはず!」
「わかった。わかったら、その坊ちゃんだけは止めてくれ」
眉間に皺を寄せながら、興奮して血管を切りかねないデイモンドを見つめた。離れの家屋をあてがえばすぐに帰ると思ったのに、しぶとく残っている。こうなると追い返すのは容易ではないだろう。
この頑固な執事を説得させるには、一夜を過ごすしかない。一夜と言わず一刻も寝室で共に過ごせば、令嬢も怖がるだろうしデイモンドも諦めるだろう。
「わかった、明日の午後に城内の礼拝堂で宣誓だけして、お前の言う初夜を共に過ごす」
「おお! ようやくその気になってくれましたか!」
「だが、結婚の前にこの条件に目を通してもらって、了解を得るんだ」
「わかりました、では先方にも早速伝えて、ご用意させていただきます」
デイモンドは顔をぱあっと輝かせると、俺の用意した契約書を持ち、浮き立った足取りで部屋を出ていった。パタンと扉が閉まり、執務室には一人きりとなる。
俺はふーっと長い息を吐いてからそっと机の引き出しを開け、一枚の桃色のハンカチを取り出した。
——これをくれた令嬢も、今頃は結婚しているだろうな……
一年前、王都でショタ喰いの魔女を探している時に出会った娘。色が白く可愛らしい顔をして微笑んでいた。魔女に呪いをかけられて以来、誰も自分の顔を見て心からの笑顔を向けられたことはない。
それなのに、彼女は恐れることなく笑いかけてくれた。それも、俺がバルシュ辺境伯ということも知らずに。
一瞬で心を奪われた。
彼女のような女性であれば、共に生きたいと思えるから不思議なものだ。だが、女性を抱くことのできない俺では、子どもを産み育てる幸福な未来を与えることができない。
名乗り出ることも、相手の令嬢の家名を調べることもしなかった。下手にわかってしまえば、手を出してしまいそうになる自分がいる。
「はぁ、諦めるしかないな。俺も年貢の納め時だ」
デイモンドは子づくりのために令嬢を呼んだが、この勃起不全は相手で変わるものではない。だから初めから同衾することなど諦めている。
「まぁ、男漁りが好きならば、お飾りの妻にもなってくれるだろう」
俺が妻を抱くことはできない。そうであれば、他の男をあてがい発散してもらえばいい。親族の男の子種を仕込んで貰えば、そのまま後継ぎとして育てることもやぶさかではない。
そのためには、奔放な令嬢の方が話をしやすいだろう。相手も嫁に行く先などないだろうから、お互いに益がある。デイモンドに渡した契約書には、その条件を書き記してあるから、不服なら結婚式に来ないだろう。
結局お飾りとはいえ、妻を持つことに重いため息を吐く。初恋である桃色ハンカチの令嬢を諦める日が来たことを、実感せざるを得なかった。
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