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第七話

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 暁の光が山々を照らしている。窓から入ってくる一筋の光に眩しくなり目を開けると、隣には愛しいシャーロットが眠っている。

「ようやく、手に入れることができた」

 しなやかな青銀の髪を一筋とって口元に運ぶ。どうしても彼女が欲しかった。自分を薄汚い孤児院から連れ出し、仕事と教育を与えてくれた。彼女が自分を選んでくれなければ、有り余る力を何に使っていたのかわからない。

 いつしか、眩しいばかりの美少女を手に入れたいと願ったが、伯爵令嬢を娶る道は限りなく細かった。その細い道を突き進むために騎士となり己を磨いた。運もあって、英雄と呼ばれる程に戦果を挙げることができたのは幸いだった。

 黄金の光を見ながらヴィクターは、シャーロットの頬にふわりと唇を乗せると、ぱちりと瞼が開かれ紅の瞳がこちらを見る。あぁ、この色が欲しかった。

「ヴィクター……」
「おはよう、シャーロット」

 小鳥のさえずりのような声を聞きつつ、香りだけを身に着けた彼女を眺める。寝顔も飽きなかったが、やはりくるくると動く表情を見ると愛しさがこみあげてくる。今ならどんな敵でも倒すことができそうだ。

「あっ」
「シャーロット、どうした?」
「だって、昨日まで私、あなたのことを諦めなきゃって思っていたのに。こんなことになるとは、思っていなかったから……」

 混乱する様子のシャーロットの青銀の髪を撫でながら、ヴィクターは目を細めた。

「そういえばマリア様は大丈夫なの? 私たち、身体を繋げたから、その、もう結婚を取り消されることはないの?」
「あぁ、大丈夫だよ。マリア様はもう、この旅が終われば隣国に嫁ぐことが決まっている。パレード中は、何かあれば俺が身代わりとなるために近くに寄っていただけだ」
「そ、そうだったの……、私あなたに目を逸らされたと思って」
「シャーロット。君の瞳を見てしまうと護衛に集中できなくなりそうで、つい顔を背けてすまなかった。マリア様にも揶揄われてしまったよ」

 ヴィクターはシャーロットを安心させるように、額にキスをした。

 不本意な噂が流れていたが、それもすぐに消えるだろう。皇女は隣国との平和条約を結ぶ条件として、花嫁となる決意をしている。嫁ぐ前に帝国内を見ておきたい、と皇女の願うようにパレードも開催された。

 少し急いでしまったが、あとは妻となったシャーロットを皇都に与えられた屋敷に連れて帰り、彼女の望む通りの結婚式をしたい。

 シャーロットの髪を撫でていたヴィクターは、その手で背中をさすり、次第に下の方におろして臀部を撫でる。

「んっ、ヴィクター……」
「シャーロット、愛しているよ」

 ようやく捕まえることのできた可愛い妻をヴィクターはこの日、片時も離さなかった。二人は暁が黄昏に変わるまで、部屋にこもりきり別宅には絶えず寝台の軋む音が響いていたという。

(おわり)
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