【R18】英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う

季邑 えり

文字の大きさ
上 下
4 / 7

第四話

しおりを挟む
「もう、お嬢さまなんて言われる年齢じゃないわ」
「俺にとっては、お嬢さまです」
「ヴィクター、でもどうしてここへ」

 瞳を潤わせたままシャーロットが見上げると、ヴィクターは精悍な顔を崩して微笑んだ。

「妻問いに来ました」
「え? つま? 妻問いって」
「はい、お嬢さまに妻問いに来ました」
「……何を言っているの?」

 妻問いというけれど、彼は既に皇女マリアと婚約しているのではないか。不信感が顔にでてしまうと、ヴィクターはシャーロットの細い腰に回していた手をぐっと引き寄せた。

「お嬢さま、俺が妻にしたい女性はあなただけです」
「でも、あなたには」

 あなたには皇女マリアがいるのに。口にでかかるけれど、言葉にするには躊躇われた。肯定されたら、悲しくなってしまう。

「俺は、あなたに妻問いする立場を得るために、騎士として名をあげました。ようやく、伯爵の許しもいただくことができました」
「本当に? 本当に私と結婚するために?」
「そうです」

 真面目な顔をしてヴィクターは頷くと、真摯な態度を変えることなくまっすぐにシャーロットを見つめている。

「欲しいものがあるって、言っていたわ」
「それは、お嬢さまです」
「っ、私なの?」
「はい」

 ようやくヴィクターの想いを聞き、嬉しいとばかりにシャーロットは背中に回していた腕にギュッと力を込めた。すると、ヴィクターはシャーロットの両肩に手を置いて、優しく身体を引き離した。

「お嬢さま」

 身体が離れた途端、片膝をついてシャーロットを見上げる姿勢をとり、左手を己の心臓の位置にあてた。手袋をとった右手をシャーロットに向けて伸ばすと、細く白い手をとった。

「シャーロット・ウォルトン嬢、私、ヴィクター・クスフェアは生涯あなたを愛すると誓います。どうか、私と結婚してください」
「ヴィクター! えぇ、えぇ、あなたと結婚します」

 ことばにつかえながらも、シャーロットはヴィクターのプロポーズに応えた。何度も夢にまで見た、ヴィクターからの求婚が現実のものとなる。ヴィクターはシャーロットの手の甲に口づけをすると、スッと立ち上がった。

「嬉しい、本当のことなの?」
「お嬢さま、ここは祈りの間ですから、今のことばで神に結婚を誓ったことになります」
「そ、そうね」

 すると一枚の紙を取り出したヴィクターは、祭壇の前にシャーロットを引き寄せて宣誓書にサインをする。

「ここに名前を書いてください」
「え、えぇ」

 感動で胸がいっぱいのシャーロットは、言われるままにサインをする。すると書き終わった宣誓書を丁寧に折りたたんだヴィクターは、懐に大切そうにしまった。

「それはどうするの?」
「後ほど、皇宮に送ります。ウォルトン伯爵が証人なので、無事に結婚申請は受理されるでしょう」
「えっ、それって、結婚宣誓書だったの?」
「はい」
「てっきり婚約なのかと思っていたわ」

 ヴィクターは驚いた顔をしたシャーロットを引き寄せると、顎に手を添えて上を向かせた。奥に熱を持った瞳が見つめている。

「順番が前後しましたが、誓いのキスをしてもよろしいでしょうか、お嬢さま」
「は、はい」

 誓いのキス、という言葉に思わず頬を染めた瞬間に、温かい唇がシャーロットの上に落ちてくる。触れただけの唇に、思わず寂しさを感じてしまいヴィクターを見上げると、彼は耳を真っ赤にしていた。

「そんな、煽るような顔をしないでください」
「煽るような顔って?」

 顔をかしげると、ヴィクターはくっと口を引き締めて再びシャーロットを引き寄せた。

「ここでこれ以上触れるわけにはいきませんので、奥の部屋へ行きましょう」
「えっ、ええっ?」

 ヴィクターはシャーロットを横抱きして祈りの間を出ると、別宅の奥へ急ぎ運んでいく。普段から客を迎える別宅には、寝台のある部屋が用意されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

処理中です...