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第四話
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「もう、お嬢さまなんて言われる年齢じゃないわ」
「俺にとっては、お嬢さまです」
「ヴィクター、でもどうしてここへ」
瞳を潤わせたままシャーロットが見上げると、ヴィクターは精悍な顔を崩して微笑んだ。
「妻問いに来ました」
「え? つま? 妻問いって」
「はい、お嬢さまに妻問いに来ました」
「……何を言っているの?」
妻問いというけれど、彼は既に皇女マリアと婚約しているのではないか。不信感が顔にでてしまうと、ヴィクターはシャーロットの細い腰に回していた手をぐっと引き寄せた。
「お嬢さま、俺が妻にしたい女性はあなただけです」
「でも、あなたには」
あなたには皇女マリアがいるのに。口にでかかるけれど、言葉にするには躊躇われた。肯定されたら、悲しくなってしまう。
「俺は、あなたに妻問いする立場を得るために、騎士として名をあげました。ようやく、伯爵の許しもいただくことができました」
「本当に? 本当に私と結婚するために?」
「そうです」
真面目な顔をしてヴィクターは頷くと、真摯な態度を変えることなくまっすぐにシャーロットを見つめている。
「欲しいものがあるって、言っていたわ」
「それは、お嬢さまです」
「っ、私なの?」
「はい」
ようやくヴィクターの想いを聞き、嬉しいとばかりにシャーロットは背中に回していた腕にギュッと力を込めた。すると、ヴィクターはシャーロットの両肩に手を置いて、優しく身体を引き離した。
「お嬢さま」
身体が離れた途端、片膝をついてシャーロットを見上げる姿勢をとり、左手を己の心臓の位置にあてた。手袋をとった右手をシャーロットに向けて伸ばすと、細く白い手をとった。
「シャーロット・ウォルトン嬢、私、ヴィクター・クスフェアは生涯あなたを愛すると誓います。どうか、私と結婚してください」
「ヴィクター! えぇ、えぇ、あなたと結婚します」
ことばにつかえながらも、シャーロットはヴィクターのプロポーズに応えた。何度も夢にまで見た、ヴィクターからの求婚が現実のものとなる。ヴィクターはシャーロットの手の甲に口づけをすると、スッと立ち上がった。
「嬉しい、本当のことなの?」
「お嬢さま、ここは祈りの間ですから、今のことばで神に結婚を誓ったことになります」
「そ、そうね」
すると一枚の紙を取り出したヴィクターは、祭壇の前にシャーロットを引き寄せて宣誓書にサインをする。
「ここに名前を書いてください」
「え、えぇ」
感動で胸がいっぱいのシャーロットは、言われるままにサインをする。すると書き終わった宣誓書を丁寧に折りたたんだヴィクターは、懐に大切そうにしまった。
「それはどうするの?」
「後ほど、皇宮に送ります。ウォルトン伯爵が証人なので、無事に結婚申請は受理されるでしょう」
「えっ、それって、結婚宣誓書だったの?」
「はい」
「てっきり婚約なのかと思っていたわ」
ヴィクターは驚いた顔をしたシャーロットを引き寄せると、顎に手を添えて上を向かせた。奥に熱を持った瞳が見つめている。
「順番が前後しましたが、誓いのキスをしてもよろしいでしょうか、お嬢さま」
「は、はい」
誓いのキス、という言葉に思わず頬を染めた瞬間に、温かい唇がシャーロットの上に落ちてくる。触れただけの唇に、思わず寂しさを感じてしまいヴィクターを見上げると、彼は耳を真っ赤にしていた。
「そんな、煽るような顔をしないでください」
「煽るような顔って?」
顔をかしげると、ヴィクターはくっと口を引き締めて再びシャーロットを引き寄せた。
「ここでこれ以上触れるわけにはいきませんので、奥の部屋へ行きましょう」
「えっ、ええっ?」
ヴィクターはシャーロットを横抱きして祈りの間を出ると、別宅の奥へ急ぎ運んでいく。普段から客を迎える別宅には、寝台のある部屋が用意されていた。
「俺にとっては、お嬢さまです」
「ヴィクター、でもどうしてここへ」
瞳を潤わせたままシャーロットが見上げると、ヴィクターは精悍な顔を崩して微笑んだ。
「妻問いに来ました」
「え? つま? 妻問いって」
「はい、お嬢さまに妻問いに来ました」
「……何を言っているの?」
妻問いというけれど、彼は既に皇女マリアと婚約しているのではないか。不信感が顔にでてしまうと、ヴィクターはシャーロットの細い腰に回していた手をぐっと引き寄せた。
「お嬢さま、俺が妻にしたい女性はあなただけです」
「でも、あなたには」
あなたには皇女マリアがいるのに。口にでかかるけれど、言葉にするには躊躇われた。肯定されたら、悲しくなってしまう。
「俺は、あなたに妻問いする立場を得るために、騎士として名をあげました。ようやく、伯爵の許しもいただくことができました」
「本当に? 本当に私と結婚するために?」
「そうです」
真面目な顔をしてヴィクターは頷くと、真摯な態度を変えることなくまっすぐにシャーロットを見つめている。
「欲しいものがあるって、言っていたわ」
「それは、お嬢さまです」
「っ、私なの?」
「はい」
ようやくヴィクターの想いを聞き、嬉しいとばかりにシャーロットは背中に回していた腕にギュッと力を込めた。すると、ヴィクターはシャーロットの両肩に手を置いて、優しく身体を引き離した。
「お嬢さま」
身体が離れた途端、片膝をついてシャーロットを見上げる姿勢をとり、左手を己の心臓の位置にあてた。手袋をとった右手をシャーロットに向けて伸ばすと、細く白い手をとった。
「シャーロット・ウォルトン嬢、私、ヴィクター・クスフェアは生涯あなたを愛すると誓います。どうか、私と結婚してください」
「ヴィクター! えぇ、えぇ、あなたと結婚します」
ことばにつかえながらも、シャーロットはヴィクターのプロポーズに応えた。何度も夢にまで見た、ヴィクターからの求婚が現実のものとなる。ヴィクターはシャーロットの手の甲に口づけをすると、スッと立ち上がった。
「嬉しい、本当のことなの?」
「お嬢さま、ここは祈りの間ですから、今のことばで神に結婚を誓ったことになります」
「そ、そうね」
すると一枚の紙を取り出したヴィクターは、祭壇の前にシャーロットを引き寄せて宣誓書にサインをする。
「ここに名前を書いてください」
「え、えぇ」
感動で胸がいっぱいのシャーロットは、言われるままにサインをする。すると書き終わった宣誓書を丁寧に折りたたんだヴィクターは、懐に大切そうにしまった。
「それはどうするの?」
「後ほど、皇宮に送ります。ウォルトン伯爵が証人なので、無事に結婚申請は受理されるでしょう」
「えっ、それって、結婚宣誓書だったの?」
「はい」
「てっきり婚約なのかと思っていたわ」
ヴィクターは驚いた顔をしたシャーロットを引き寄せると、顎に手を添えて上を向かせた。奥に熱を持った瞳が見つめている。
「順番が前後しましたが、誓いのキスをしてもよろしいでしょうか、お嬢さま」
「は、はい」
誓いのキス、という言葉に思わず頬を染めた瞬間に、温かい唇がシャーロットの上に落ちてくる。触れただけの唇に、思わず寂しさを感じてしまいヴィクターを見上げると、彼は耳を真っ赤にしていた。
「そんな、煽るような顔をしないでください」
「煽るような顔って?」
顔をかしげると、ヴィクターはくっと口を引き締めて再びシャーロットを引き寄せた。
「ここでこれ以上触れるわけにはいきませんので、奥の部屋へ行きましょう」
「えっ、ええっ?」
ヴィクターはシャーロットを横抱きして祈りの間を出ると、別宅の奥へ急ぎ運んでいく。普段から客を迎える別宅には、寝台のある部屋が用意されていた。
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