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後編

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――あれから1か月後。
ウォルツ侯爵家は取り潰しとなった。

魔物の進行にあって壊滅的な被害を被ったから。

私の予想した通り、シュナという女性は、最近王都周辺で話題になっていた結界詐欺師だった。

結界詐欺師とは、資格のないものが結界魔術師と偽り、役に立たない見かけだけの結界を張って報酬や契約金をもらって人を騙す詐欺師のことをそう呼んでいる。
そのターゲットは、金はあるが結界に関する知識が皆無な王都近郊の当主やその子息たち。

その被害が各地で起こっていることを国王陛下も問題視して、詐欺師個人や組織の一斉検挙に乗りかかった。
その結果捕まった詐欺師の中に彼女の名前もあった。

結界詐欺師に騙された家は、どこも大小被害を被っているようだ。
とくにウォルツ侯爵家は酷いようで、なんと私の結界の効力が切れた途端に、領地の騎士を全員解雇したのだ。
おかげで魔物は結界を素通りして領地を進攻。見るも無残な有り様となった。

ちなみに侯爵領の住民の方たちには、事前に私が話をしていた。
私の話を信じてくれた人は領地から逃げ出したおかげで無事だそうだが、「平民のくせに侯爵に取り入った娼婦」と私を罵り無視した方たちは、一人残らずお亡くなりになったそう。


私はシュナ様の結界を見た瞬間に、彼女が結界詐欺師だとわかった。
簡単だった。彼女の結界には聖属性の魔力を纏ってなかったから。
ただの結界では魔物には何の効果もない。魔物に有効なのは聖属性の結界だけだ。

実は結界自体は練習すれば殆どの人が使用できる。
難しいのはその結界に聖属性の魔力を纏わせること。

そもそも聖属性の魔力持ちでなかったらその時点で無理だし、魔力持ちでも結界に聖属性の魔力を纏わせることは、非常に繊細な魔力操作を要求されるのだ。

結界魔術師の資格を持つのが難しいのはそういうところに理由がある。


そんな結界に関して全くの無知だったライオネル様はというと。
魔物の進攻に際し、住民の避難誘導も行わず真っ先に領地から逃亡。
駆けつけた王国軍が討伐するまで領地に返ってくることはなかった。

それに国王陛下が激怒。
領主の資格無しと判断され、爵位をはく奪。
更には魔物との交戦で損耗した騎士団の治療費や遠征費のすべてを請求。
莫大な借金を背負い、鉱山奴隷として死ぬまで働かされることになったそう。


そして私はというと……


「リリーナ嬢。今回もお疲れ様です」

「辺境伯様。いえ、私は契約通りに結界を張ってるだけですので」

辺境伯の領地で結界魔術師の募集があったので応募したところ、無事採用される運びとなりました。
ちゃんと能力に見合った報酬も出るし、理不尽な契約内容もないので侯爵家とは雲泥の差ですね。

「お疲れでしょう。少し休まれていきますか」

「いえ、そんなことは……」

「少し顔色が悪く見えますよ」

そういうと辺境伯様は、屋敷のメイドに指示を出していき、私は屋敷で休んでいくこととなりました。
辺境伯様は少し強引な方ですが、今まで体調を心配されたことはないので新鮮です。

「次回の契約は君の体調が回復してから結ぶとしよう」

「今でも大丈夫ですが……」

「駄目だ。結界魔術師は少しの結界の使用でも、魔力と精神を消耗すると聞く。私は君とは対等な関係を結びたいと考えている」

辺境伯様は、私のことを調べているようで、その境遇を知ってか、こうして私のことを大事にしてくれます。
……ほんとに立派な方です。


「あれ? 辺境伯様、お怪我を……」

「大したことはない。かすり傷だ」

私は辺境伯様の腕を見ると、結界魔法と聖属性魔法を応用してその傷を治療していく。
結界魔術師ならだれでもできる技術の一つ。

「すみません。勝手な真似を」

「いや、気にするな。感謝する」

初めて誰かからお礼を言われました。
……少しむず痒いです。

「君ほどの優秀な結界魔術師を私は見たことがない。近いうちに1級も目指せるのではないか?」

「……そうですかね?」


辺境伯様はお世辞で言ってくれているのだとしてもすごくうれしいわ。

……本当に目指してみようかしら?




――このあとリリーナは本当に結界魔術師1級を取得し、王国一の結界魔術師と言われ、後世にその名を残すことになるとは、彼女自身思ってもみなかったことだろう。
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