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前編

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「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」

そう私リリーナにいきなり言い出したのは、ライオネル・ウォルツ侯爵様。
ここら一帯を治めているウォルツ家の当主であらせられる方。

「いきなり破棄と言われましても……事情を説明してください」

「貴様の結界は汚い! 我が侯爵領の結界にふさわしくない!」

「ですが私は契約通りの結界を張っておりますが……」

「うるさい! 2級結界魔術師の貴様の結界は、不格好で魔物が領内に侵入してくるではないか!」

結界に綺麗も汚いもないと思うのに、何をこだわっているんでしょう、この方は……
私は最初の契約通りに結界を張ってるだけなのに。

私は結界魔術師資格の2級を所持している。
結界魔術師資格とは、張れる結界の規模や効力によって認定される国家資格だ。

私がもつ2級ですら取得することが難しいということを、この方は理解しているのだろうか。
きっと理解してないんでしょうね……

「私の張る結界は魔物を弱らせることはできますが、完全に侵入を防ぐことはできないと、当主がライオネル侯爵様に代替わりなさった際にお話ししたはずですが」

「それは父上に言われて仕方なく契約を続けただけだ。父上が亡くなった今、貴様との契約を続行する意味はない!」

こんなわがままを言う方が当主なんて、侯爵領に住む方々が不憫でなりません。

「それに貴様の代わりも見つかったからな」

「私の代わりですか……」

「シュナよ。入ってくるがよい!」

「はい。ライオネル様」

と部屋の中に、恰好を見るに貴族の令嬢と思われる女性が入ってきた。

「はじめまして。シュナ・ファールと申します」

「彼女は1級結界魔術師の資格を所持している。だから貴様はもう不要だ」

「1級ですか……それは……」

それが本当ならすごいことだ。
私はまだ1級結界魔術師の資格を取得した方にお会いしたことがなかったから。

「理解できたか。彼女がいるから2級の貴様は不要だ」

「私にお任せいただけたら、ライオネル様の領地に安心と安全を保障いたしますわ」

と上品に礼をするシュナ様。
それにしても本当に貴族のご令嬢が結界魔術師の資格をねぇ……
最近どこかでそんな話を聞いた気がするんだけど、どこだったかしら……

「それが本当なら確かに私は不要ですね……」

「ふんっ! ようやく理解できたか」

「最後に一つだけ確認してもよろしいでしょうか」

「何だ?」

私は一つだけ気になったことがあった。

「1級のシュナ様の結界を実際にこの目で見て、勉強したいなと」

「……まぁ、いいだろう。シュナよ、出来るか?」

「……お任せください」

というとシュナ様は、私の様子をうかがいながらご自身の周囲に結界を張って見せた。
確かに私の張る結界と比べたら綺麗だ。
でも……

「うむ。いつ見ても綺麗な結界だ。おまけに頑丈だ」

とライオネル様は簡単な魔法で結界を傷つけようとするがびくともしていない。
やっぱりライオネル様は気付いていないらしい。

……それならチャンスは今しかないわね。

「……わかりました。それで契約書はお持ちですよね?」

「当然だ」

とライオネル様は目の前に契約書を取り出した。

契約書の中身はというと。

・私が侯爵家の結界を張る
・私に報酬を支払う代わりに、私がライオネル様と婚約をする
・この契約は当主の死亡或いは、双方の合意のもとでしか破棄できない

というもの。

ライオネル様はすでに署名済みで、本人魔力も注入済みだった。
私は契約破棄の手続きを済ませるために、書類の必要箇所に署名して最後に書類に自分の魔力を流す。

「これで私とライオネル様との間の契約は正式に破棄されました」

「やっと貴様との婚約が破棄になった。シュナ、これで君と一緒になれる」

「うれしいですわっ! ライオネル様」

「……それでは私はこれで失礼します。1か月は結界の効力があると思いますので」

「うるさい! 平民はさっさと私の前から消えろ」

ああ、そういうことね……
ただ平民の私が婚約者っていうのが嫌だったってことね。
それならもっと早く破棄してくれればよかったのに。

結界張った直後の意識がはっきりしていないタイミングで契約をしたのは失敗だったな。
あんな私に何一つ利益のない私をただ働きさせるためだけの契約。
あんな生理的に受け付けない男との婚約なんて、こっちから願い下げだわ。
破棄してくれて、こちらこそお礼を言いたいわ。


それにしてもあの令嬢……

私の勘が正しければ彼女は……
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