『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k

文字の大きさ
上 下
5 / 21

5.王妃の想い

しおりを挟む
アシュリーが帝国へと向けて出発した同時刻、セシルの姿は王宮の執務室にあった。
セシルが娘の見送りにも行かず公務を行っている中、国王とリーテルマは我関せずとばかりに、茶を飲んでくつろいでいた。

「今頃、あれは帝国へ出発したころかしら。娘の旅立ちを見送らないなんて薄情な母親ですこと」
「……私はこの国の王妃です。国より私情を優先されるわけにはいきませんから」
「平民の癖に偉そうなこと言ってんじゃないわよ」

側妃の発言をスルーして淡々と公務を行っていくセシル。

「ほんとに詰まんない女ね。そうだ陛下、この後ラビニアと一緒に次の夜会の新しいドレスを選ぶの。陛下もご一緒にいかがですか?」
「うむ。そうだな、私も付き合おう」
「陛下。本日中に陛下の承認が必要な書類がまだ残っています」
「それは私のやることではない。君の仕事だ」
「私たちの分のこの国の為にしっかり働いてくださいね。王妃陛下」

そういうと国王と側妃は二人で部屋を後にする。
二人が出ていき、部屋にはセシルとお付きの侍女の二人だけ。
少しの静寂の後に、ミシミシと嫌な音がし始める。
その音は、次第に強まり、最後にはバキッという音に変わる。

王女の手に持っていたペンが折れていた。

「少し休憩にしましょうか」
「……そうね」

侍女が淹れたお茶を飲みながら、セシルは様々なことを考えていた。
この国の現状……
周辺諸国との関係……
そして、娘のアシュリーのこと……

「お父様から報告が上がってきました。セシル様の懸念してた通り、多数の家の税収報告に不審な点が見つかったそうです」
「やっぱり……あなたのお父様。公爵様と協議したいわ」
「すぐに連絡します」
「……いつも助かるわ。貴方と公爵様の協力がなかったらどうなっていたか……私では貴族たちを抑えられないから」
「……気にしないで。私と貴方の仲じゃないの。セシル」

この国の殆どの貴族が、王妃であるセシルのことを、表面上では従っているが、内心では平民ということで下に見ている者が殆ど。
侍女や彼女の実家の公爵家は、そういった選民思想にとらわれることなく、国のために貢献してくれている。
侍女も、セシルにとっては、信頼できる同志であり、大切な友人でもある。

「本当に見送りに行かなくてよかったの?」
「そうね……あの人たちがこれ片づけてくれるのなら行けたのにね」
「あんなのが国王と側妃だなんて、セシルがいなかったら、この国滅ぶんじゃない?」
「……やめてよ。冗談に聞こえないわ」
「……そうね。そんな未来しか想像できなかったわ」

二人が容易に想像できるくらいに、国王たちは何もしない人なのだ。

「アシュリー様の帝国行きに貴方が承諾したのって、行き先が帝国だからでしょ?」
「ええ。皇帝陛下たちのことは知っているから。彼らになら安心してあの子を任せられるわ。丁度同い年の皇女様もいらっしゃるし」
「そういえばセシルは、帝国の学園に通ってたんだよね」
「そうよ」

セシルは平民でありながら、帝国の学園に留学していたのだ。
学園は何かに秀でているものは身分も国内外問わず、誰でも受け入れることで有名だ。
更にセシルはその学園を首席で卒業した程。
その時の同学年には、現皇帝陛下夫妻もいらっしゃった。

「大丈夫なの?アシュリー様は、勉強は全然……」
「そうね。あの子は勉強は全くできないわね。勉強は……ね」

セシルの含みを持たせた言葉は、侍女にも疑問譜を浮かべた。

「(アシュリー。厳しくしか接してなかったから、きっと私のことは嫌いよね。でも私は、貴方のことを愛しているわ。どうか幸せになって……)」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

これが私の兄です

よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」  私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。  理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。  だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。  何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。  周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。  婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...