『出来損ない』と蔑まれてた私ですが、私の魔法は意外と使えそうです

16話

ルビーの部屋は、入った途端に鼻につく異臭を感じる。
引きこもっているルビーは最近湯浴みもまともに行っていない。

「引きこもってないで、偶には外に出たら？」

「……うるさいな。あんたなんかにそんなこと言われたくない」

ルビーの手と首には、治癒師の魔法でも完治できなくなった火傷の跡がくっきりとできている。

「それで？　私を嘲笑いに来たんでしょ？　満足？　今の私の姿を見て」

「そうね。いい気味だわ。お父様が言ってたわ。あなたの縁談がまとまりそうって」

「どうせどっかの金持ちなハゲジジイとかなんでしょ……用はそれだけ？　だったらもう、出てってくれない？」

覇気のないルビーを見てると、なんだか無性に何かに苛立ってる自分がいた。
私は近くに散らばっていたネックレスの鎖部分を魔法で操り、ルビーの首を絞める。

「！　……あがっ……ぐっ」

ルビーはネックレスを持って引き離そうとするも、びくりともしない。
私は更に魔法をかけ、鎖を高温に状態変化させる。

「ああっ……痛っ……！」

熱さに、鎖を引きはがそうとしていた手が鎖から離れる。
今のルビーは、高温の鎖で首を絞められた状態になっている。
首を絞められる苦しみと燃えるような熱さの両方を同時に味わっている。

「苦しい？　熱い？　どうせならこのまま殺してあげようか？」

このまま絞める力を加えれば容易にできる。

けど……何だろう……

この空虚感。

「！　はぁ……ゲホッ、ゲホッ……」

私が魔法を解除したおかげで、せき込みながら呼吸を繰り返しているルビー。

「なんで私がこんな目にあってるの？　『出来損ない』のあんたじゃなくて、何で私が！！」

「ルビー…………私。あなたのこと大っ嫌い」

苦労一つなく呑気に過ごしていたルビーが――

両親からの愛情を一心に注がれていたルビーが――

領民の前で私を出汁にして自分を良く魅せるすルビーが――

今まで嫌いだった。

「奇遇ね。私も、お姉様のことなんて大嫌いよ」

「そう――」

私は、魔法を使いネックレスを操作しルビーの首を絞めようとした――

「さようなら――――大嫌いなお姉様」

ルビーは今にも死のうとしているのに、口元はうっすらと笑みを浮かべている。

ネックレスは魔法でルビーの首に巻き付いている。
あと少しでこのまま絞め殺せる――
私は――



「――――何で殺してくれないのよ」

ルビーを……妹をこの手で殺すことはできなかった。
確かに殺そうとは思ってるのに、なぜか最後の一歩が出なかった。

「もう疲れたの……だから殺してくれない？」

「…………やめたわ」

魔法を解除したネックレスはだらんとルビーの首に垂れる。
彼女のことは嫌い。今すぐにでも殺したい……
そう思っているのに……

最後の一歩が踏み込めなかった。

「誰があなたの言う通りにしなきゃいけないの？」

「ふん。お姉様の意気地なし」

「なんとでも言ったらいいわ。今のあなたに構うだけ時間の無駄ね」

「だったらさっさと出てってくれない」

「……そうね」




私は話を切り上げて部屋を出ていこうとする。
すると、そんな私を引き止めるように、背後からルビーが私を抱きしめてくる。

「…………やだなぁ……見ず知らずのハゲジジイのところに行くの」

「だったらこの家、出ていけばいいんじゃないかしら？　貴方にその覚悟があるならね」

「……それもいいかもね」

今のルビーの様子に思うところがあった私は、最近王都で広まっている噂話をもちだした。

「……隣国が治癒の魔法を使える人を募集してるって。最近王都で噂になってるわ」

隣国の帝国が、身分や国を問わず治癒の魔法を使える人を募集している、というこの話おそらくは真実。
今の皇帝は実力があれば平民だろうと積極的に登用するというのは、周辺諸国では有名な話だったからだ。

「私。領民の傷を治すの。結構楽しかったのよね」

「あれ？　私が怒られてるのを見る方が楽しかったんじゃないの？」

「そっちも楽しかったわ。お姉様の困り顔とかほんと最高！！」

といつもの調子に戻っていたルビー。
私はそんな彼女の様子に、ホッとした。
あれ？　どうして私、今、ホッとしたのかしら……？

「出ていくなら湯浴み位は済ませていったら？　あなた臭うわよ」

「ねえ……お姉様も一緒に入らない？」

「……仕方ないわね」

貴族の家でも仲のいい姉妹などは、湯浴みを一緒に入ることをある。
我が家も私の魔法が判明するまではルビーと一緒に入ることもあった。
そっか……昔は一緒に湯浴みすることもあったのよね……