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3章

17.ギフトの限界

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「何これ……」

目の前に広がる光景は一瞬現実なのか疑いたくなるものだった。
逃げ惑う獣人達を容赦なく襲っている人。
中には直視したくないことまでしてる者まで。

「お前らぁぁーー!!」

「イーリス!」

と我を忘れたイーリスが駆けていく。

「戦闘準備!」

とリリアさんが部下の騎士に指示をして討伐を行っていった。

「お嬢様……」

「無理なら安全な場所に隠れてなさい」

「いえ……やります」

「……無理しないでね」

私たちも加勢することにした。
人間相手に戦う事は当然初めてだ。

前世で不良相手と喧嘩したのとはわけが違う。
でも、これを見過ごすことはできない。


「アイラ!」

途中アイラが盗賊の矢を受けそうになるのを庇って、私が負傷する場面もあった。

「大丈夫……っ!」

あれ……足元が覚束ない……。

「お嬢様っ!」

倒れそうになるのをアイラが支えてくれた。

「申し訳ありません。私のせいで……」

「気にしないで、それより油断しないで。まだ終わっていないから」

「はいっ」

めまいと足のふらつきは一瞬だけだったようで、直ぐに何ともなくなった。


それから私たちもリリアさんと一緒に盗賊の討伐を行っていった。
事態が収拾するころには、私たちは無事だったけど、騎士達の中には負傷者も多数出たみたい。

「イーリス嬢! ご無事で……」

「はい。途中矢をもらったけど、かすり傷みたいですね」

「本当ですか? 連中が使う矢に、毒が塗ってあったようで……」

「そうなのですか? 私は別に何ともないけど……」

「それなら良かったですが……」

「隊長!」

私のことを心配してくれたリリアさんに部下の騎士が指示を仰ぎに来ていた。
忙しそうなので、私はその場から離れることにした。


「治療魔法が使えるものは、重症者から治療を開始してください! ポーションの準備急いで!」

とリリアさんが部下に指示を出している。
ところがとても手に負える状況じゃない。

集落を襲っていた盗賊は、リリアさんたち騎士団が中心となって討伐に成功したけど、被害は大きかった。

集会場を臨時の治療所としているけど、収まりきらない人が近くの家に横になっている。
軽傷者から重症者まで多岐にわたる人たちが、治療を待っている。

「隊長! これ以上治療魔法での治療も限界です!」

「分かった。少し休んでくれ」

「隊長! ポーションの数がとても足りないです!」

「……悪化しそうな人から優先するように」

「……分かりました」

どうみても治療が追いついていない。
治療魔法もポーションも……

リリアさんたちの様子を見ただけで分かる。
この中の半分くらいは助からないかもしれない……
私のギフトなら……

「お嬢様! ダメです……」

「アイラ……」

「この前3日寝込んだんですよ! それを……この人数なんて……」

「でも……」

私がやることを察したアイラは、それを止めようとしてくる。
ふと視界の先に、負傷者の一人に寄り添うイーリスの姿が……
きっと彼女の家族なんだろう……

「ごめん……やっぱり私」

「分かり……ました……ご無事を」


心配そうに私を見守るアイラをよそに、私は集中する。

思い出せ……あの踊りを……
前回より詳細に……手先の動きを……重心の使い方を……

《ギフト『舞踊家』弐の舞――『癒』》

サーシャの踊りに反応してギフトが発動した。
いつもショーで見せる振付と対照的に、大まかではあるが力強さを感じさせるその踊りは、前回発動させた時よりも洗練させたものとなっていた。


サーシャを中心に広がった光は、前回とは比べ物にならないほど広範囲に広がっていく。
光は負傷者を包み込んでいき……徐々に人々の傷を治していく。
光が収まるころには、重症者の傷も跡形もなく綺麗に治療されていた。


「これが、サーシャ嬢の……」

「ふぅ……っと……」

「お嬢様!!」

ふらついて倒れそうになった私をサーシャが支えてくれた。

「お身体は!! 大丈夫ですか……」

「うん……ちょっと怠いけど、大丈夫かな?」

「ダメです! 今すぐ休んでください!」

「それじゃあ……」

前回発動したときよりは、疲労感が少ない気がする……
それでも結構しんどいけど……
アイラのお言葉に甘えて休もうかな……

「父さま!!」

イーリスの悲痛な叫びが聞こえてきた。
イーリスさんが寄り添っていた人は依然として目を覚まさない……

「どうして……」

「あの方はサーシャ嬢がギフトを発動させる前にもう……」

「そんな……」


――私のギフトでも死者は治せない。


私はイーリスにかける言葉が見つからなかった。
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