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1章

8.壱の舞

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「本当にご迷惑をかけて申し訳ありません」

私の目の前にいる子は、リーザさんの経営する酒屋でショーを披露する踊り子さん。
それが急な体調不良により、今日のショーに出られないことが決まり、急遽私に代役が回ってきた。

それもこれも、アイラがリーザさんに私のギフトのことを話したから。

目の前の女性は『踊り子』のギフト持ちで、彼女のショーはこの酒場の名物にもなっているから穴は開けられないらしい。
私にも自分のギフトのこと何も分かっていないのに、そんな無茶言わないでほしい。

「出来る限りは頑張るけど……あんまり期待しないでね?」



部屋を出た私は、ショーに向けての支度をする。
それを手伝ってくれてるアイラは、ギフトのことを話したのを申し訳なさそうにしている。

「……皮肉ね。『踊り子令嬢』と呼ばれた私が、本当に踊り子をやるなんて」

「……申し訳ありません、お嬢様。私、勝手なことを……」

「別にいいわ。ちょっと試してみたいこともあったしね」

「試してみたいこと……ですか」

そう、私はこのギフトについて試してみたいことがあった。


『舞踊家』……その名を聞いたことが私が私を思い出すきっかけにもなったとしたら……
それが発動の鍵だとしたら……



「お集りのお客様。お待たせいたしました。当店名物のショーの時間です!」

司会の子のアナウンスとともに、酒場のお客たちのテンションが上がっている。
舞台袖で待機している私の恰好は、今日踊り子が着るはずだった踊り子の衣装……ではなく、社交界のダンスとかで着られている一般的なドレス。

……流石にあそこまで露出の激しいドレスを私に着る勇気はなかった。というよりアイラが猛反対した。
だって、大事な部分は隠れているけど、それ以外が殆ど見えているんだもの。
これを平気で着てたあの子はある意味ですごいわ。

「それでは、サーシャ嬢の登場です!」

いよいよ私の出番が回ってきた。
ステージに上がる私を物珍しそうに見てくる客。
中には挑発してくるものもいる。

そんな声を無視して私は思い出している。

サーシャ・フロイライン花柳咲夜だったころのことを……

それに合わせて無意識に足さばきを、指先を動かしていく。

この踊りはこの世界にない――日本舞踊の動き。

私の動きに合わせて、奏でられていた音楽がしっとりとしたものに変わっていった。
あれだけ騒がしかった客の声も耳に入ってこない。


《ギフト『舞踊家』壱の舞――『力』》


今、私のギフトが発動した。


何故かは自分でも分からないけど、なんとなく……それが分かった。
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