181 / 197
そして未来へ
179
しおりを挟む
『ねぇ、維新くん』
『なんですか?陽くん』
朔也が創世会本部での用事で留守にしている今日、吾妻が陽のお相手を勤めているのだが、陽から思いがけない相談を持ちかけられたのだ。
『朔也に感謝の気持ちを伝えたい』
ガジュマルの家で世間の仕組みを知り、情緒が養われたことで朔也が陽を養育していることが、一般的には稀なことであると気付いたのだ。
陽は前田達也の存在を知らない。今やペットとして飼われている前田達也の存在を伝えるつもりはない。
長谷美由紀のことは、しっかりと記憶に刻まれているようだが、だからこそ血の繋がりのない朔也が陽に注いでくれる愛情が奇跡のようなことだと気付いたのだろう。
居合わせた鹿島と楠瀬を巻き込み、吾妻と陽は朔也への感謝を伝える術を考えるのだった。
楠瀬は、朔也に感謝状のような手紙を贈るのはどうかと言う。目に見えない気持ちを大切にしている楠瀬らしい提案だ。
料理をして朔也に振る舞うのはどうかと言うのは、やはり料理人である鹿島だ。
鹿島はあくまで手伝うだけ。陽がメニューを考え料理を作り気持ちを伝えるのはどうかと言う。
吾妻も知恵を絞る。しかし、どんな方法であれ陽から朔也に感謝の気持ちを伝えるのなら、朔也は泣くほどに感激するだろう。
それが容易に想像できてしまうため、結局は何でもいいのではないかと思う。
朔也は陽の誕生日の度に身に付けられるものをプレゼントしている。それは独占欲の現れにほかならないのだが。
であれば、陽からも独占欲の象徴になるような身につける物を贈るのはどうだろう。
『足首につけるミサンガを手作りするのは、どうですか?』
ミサンガの材料の糸は、陽の小遣いで十分に揃えられる。
編みかたは菜々子に聞けば幾通りかの編みかたを知っているはずだ。
願い事をしながら編むと言うのも、陽にとっては魅力の1つなのではないだろうか。
三人三様の提案を受けた陽は暫く考えた後、
『それ、全部やりたい』
とあまり陽らしくない答えが帰ってきた。自分のことであれば、欲深くなることはない。何かを欲しがることは稀であり、複数の物を欲しがるなど今までにはなかったのだ。
しかし、朔也への感謝となれば違うのか。物理的にも精神的にも陽の出来る限りで精一杯のことをしたいのだろう。
であれば、それを尊重したいと思うのが吾妻であり楠瀬であり鹿島なのだ。
2週間後の週末、陽から朔也への感謝のパーティーを催す。
その日は既に土門からの呼び出しが入っているが幸いにも午後の早い時間には解放されることがわかっている。
その時までに、料理の腕を磨き、感謝状を作り、ミサンガを編む。
しかも朔也には秘密裏に。
陽から朔也を引き剥がす時間も必要になってくるだろう。
策士である吾妻の腕の見せ処である。
『なんですか?陽くん』
朔也が創世会本部での用事で留守にしている今日、吾妻が陽のお相手を勤めているのだが、陽から思いがけない相談を持ちかけられたのだ。
『朔也に感謝の気持ちを伝えたい』
ガジュマルの家で世間の仕組みを知り、情緒が養われたことで朔也が陽を養育していることが、一般的には稀なことであると気付いたのだ。
陽は前田達也の存在を知らない。今やペットとして飼われている前田達也の存在を伝えるつもりはない。
長谷美由紀のことは、しっかりと記憶に刻まれているようだが、だからこそ血の繋がりのない朔也が陽に注いでくれる愛情が奇跡のようなことだと気付いたのだろう。
居合わせた鹿島と楠瀬を巻き込み、吾妻と陽は朔也への感謝を伝える術を考えるのだった。
楠瀬は、朔也に感謝状のような手紙を贈るのはどうかと言う。目に見えない気持ちを大切にしている楠瀬らしい提案だ。
料理をして朔也に振る舞うのはどうかと言うのは、やはり料理人である鹿島だ。
鹿島はあくまで手伝うだけ。陽がメニューを考え料理を作り気持ちを伝えるのはどうかと言う。
吾妻も知恵を絞る。しかし、どんな方法であれ陽から朔也に感謝の気持ちを伝えるのなら、朔也は泣くほどに感激するだろう。
それが容易に想像できてしまうため、結局は何でもいいのではないかと思う。
朔也は陽の誕生日の度に身に付けられるものをプレゼントしている。それは独占欲の現れにほかならないのだが。
であれば、陽からも独占欲の象徴になるような身につける物を贈るのはどうだろう。
『足首につけるミサンガを手作りするのは、どうですか?』
ミサンガの材料の糸は、陽の小遣いで十分に揃えられる。
編みかたは菜々子に聞けば幾通りかの編みかたを知っているはずだ。
願い事をしながら編むと言うのも、陽にとっては魅力の1つなのではないだろうか。
三人三様の提案を受けた陽は暫く考えた後、
『それ、全部やりたい』
とあまり陽らしくない答えが帰ってきた。自分のことであれば、欲深くなることはない。何かを欲しがることは稀であり、複数の物を欲しがるなど今までにはなかったのだ。
しかし、朔也への感謝となれば違うのか。物理的にも精神的にも陽の出来る限りで精一杯のことをしたいのだろう。
であれば、それを尊重したいと思うのが吾妻であり楠瀬であり鹿島なのだ。
2週間後の週末、陽から朔也への感謝のパーティーを催す。
その日は既に土門からの呼び出しが入っているが幸いにも午後の早い時間には解放されることがわかっている。
その時までに、料理の腕を磨き、感謝状を作り、ミサンガを編む。
しかも朔也には秘密裏に。
陽から朔也を引き剥がす時間も必要になってくるだろう。
策士である吾妻の腕の見せ処である。
10
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています



怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる