太陽と月

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そして未来へ

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『ねぇ、維新くん』

『なんですか?陽くん』

朔也が創世会本部での用事で留守にしている今日、吾妻が陽のお相手を勤めているのだが、陽から思いがけない相談を持ちかけられたのだ。

『朔也に感謝の気持ちを伝えたい』

ガジュマルの家で世間の仕組みを知り、情緒が養われたことで朔也が陽を養育していることが、一般的には稀なことであると気付いたのだ。

陽は前田達也の存在を知らない。今やペットとして飼われている前田達也の存在を伝えるつもりはない。

長谷美由紀のことは、しっかりと記憶に刻まれているようだが、だからこそ血の繋がりのない朔也が陽に注いでくれる愛情が奇跡のようなことだと気付いたのだろう。

居合わせた鹿島と楠瀬を巻き込み、吾妻と陽は朔也への感謝を伝える術を考えるのだった。

楠瀬は、朔也に感謝状のような手紙を贈るのはどうかと言う。目に見えない気持ちを大切にしている楠瀬らしい提案だ。

料理をして朔也に振る舞うのはどうかと言うのは、やはり料理人である鹿島だ。
鹿島はあくまで手伝うだけ。陽がメニューを考え料理を作り気持ちを伝えるのはどうかと言う。

吾妻も知恵を絞る。しかし、どんな方法であれ陽から朔也に感謝の気持ちを伝えるのなら、朔也は泣くほどに感激するだろう。
それが容易に想像できてしまうため、結局は何でもいいのではないかと思う。

朔也は陽の誕生日の度に身に付けられるものをプレゼントしている。それは独占欲の現れにほかならないのだが。
であれば、陽からも独占欲の象徴になるような身につける物を贈るのはどうだろう。

『足首につけるミサンガを手作りするのは、どうですか?』

ミサンガの材料の糸は、陽の小遣いで十分に揃えられる。
編みかたは菜々子に聞けば幾通りかの編みかたを知っているはずだ。
願い事をしながら編むと言うのも、陽にとっては魅力の1つなのではないだろうか。

三人三様の提案を受けた陽は暫く考えた後、

『それ、全部やりたい』

とあまり陽らしくない答えが帰ってきた。自分のことであれば、欲深くなることはない。何かを欲しがることは稀であり、複数の物を欲しがるなど今までにはなかったのだ。

しかし、朔也への感謝となれば違うのか。物理的にも精神的にも陽の出来る限りで精一杯のことをしたいのだろう。

であれば、それを尊重したいと思うのが吾妻であり楠瀬であり鹿島なのだ。

2週間後の週末、陽から朔也への感謝のパーティーを催す。
その日は既に土門からの呼び出しが入っているが幸いにも午後の早い時間には解放されることがわかっている。
その時までに、料理の腕を磨き、感謝状を作り、ミサンガを編む。

しかも朔也には秘密裏に。
陽から朔也を引き剥がす時間も必要になってくるだろう。
策士である吾妻の腕の見せ処である。
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