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曙
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1時間程で陽が目を覚ましたのだろう。寝室から微かに物音が聞こえる。
『陽、起きたか?』
声をかけながら寝室に入れば、ベッドから立ち上がった陽が朔也に言うことはただ1つ。
『さくや おしっこ』
手を繋ぎトイレへ向かう。至って通常運転の2人だ。
悟りを開いたかのような朔也は動じない、ように見えてはいる。
実際は理性と本能の鬩ぎ合いと言った状態が、ずっと続いているのだが。
今もギリギリのところで理性が打ち勝ってくれた。
2人揃ってリビングに戻る、ほんの数歩の間に自分の作った箱の存在を思い出したのだろう。
『がっこうで つくった はこ さきちゃんに みせる』
パタパタと寝室に戻り、大切そうに箱を抱えて出てくる陽は、どこか誇らしげにも見える。
リビングのソファで楠瀬と2人、洗濯物を畳んでいた咲恵の横に立った陽は
『さきちゃん みて ぼく つくった』
たたみかけたタオルを投げ出す勢いで、陽に体ごと向けた咲恵は
『陽くん すごい!』
上手にできたわね、と一通り作品を鑑賞した後
『学校は楽しかった?』
さっそく本題に入っていく咲恵はやはり男前だ。朔也も、そして咲恵の向こうにいる楠瀬も、聞けずにグジグジするであろうことを、あっさりと聞いてしまう。
『たのしかった また いきたい』
朔也も楠瀬も、ホッとしたような寂しいような、なんとも複雑ではあるが、咲恵は怒涛の勢いで陽に質問責めだ。
これは、陽の意思を確認すると言うよりは、朔也に対して決心を促すためなのだろう。
『学校までは、誰かが送り迎えできるけど』
学校に行ったら朔也も楠瀬も咲恵もいない。何人かの教師と友達と、そして陽とで学校生活を送ることになる。それでも大丈夫かと問えば、陽は力強く頷く。
今まで見られなかった仕草と瞳の色からは陽なりの決心が感じられる。
それほどまでに、学校と言う場所が陽には魅力的に見えたのだろう。
陽が頷いたところで、咲恵は朔也を見上げ
『だそうよ』
と一言。わかりやすい報告だ。
入学時に提出書類は今日のうちに預かっている。
いつからでも通学させるようにと南雲にも松田にも言われている。
通学するにあたって必要な物を揃えるのにも、それほどの時間はかからないだろう。一般的な学校と違い、学校指定の物等があるわけではない。
ただ、その前に。
『念のため、吾妻に調べさせます』
工藤の紹介なのだ。調査の必要があるとは思えないが、念には念をと言うのが朔也にも吾妻にも染み付いているのだ。
『違うな』
結局、陽の入学を少しでも遅らせたいだけなのだ。
入学準備と平行して、調査を進めることを決めた朔也からは思わず知らず、溜め息が溢れるのだった。
『陽、起きたか?』
声をかけながら寝室に入れば、ベッドから立ち上がった陽が朔也に言うことはただ1つ。
『さくや おしっこ』
手を繋ぎトイレへ向かう。至って通常運転の2人だ。
悟りを開いたかのような朔也は動じない、ように見えてはいる。
実際は理性と本能の鬩ぎ合いと言った状態が、ずっと続いているのだが。
今もギリギリのところで理性が打ち勝ってくれた。
2人揃ってリビングに戻る、ほんの数歩の間に自分の作った箱の存在を思い出したのだろう。
『がっこうで つくった はこ さきちゃんに みせる』
パタパタと寝室に戻り、大切そうに箱を抱えて出てくる陽は、どこか誇らしげにも見える。
リビングのソファで楠瀬と2人、洗濯物を畳んでいた咲恵の横に立った陽は
『さきちゃん みて ぼく つくった』
たたみかけたタオルを投げ出す勢いで、陽に体ごと向けた咲恵は
『陽くん すごい!』
上手にできたわね、と一通り作品を鑑賞した後
『学校は楽しかった?』
さっそく本題に入っていく咲恵はやはり男前だ。朔也も、そして咲恵の向こうにいる楠瀬も、聞けずにグジグジするであろうことを、あっさりと聞いてしまう。
『たのしかった また いきたい』
朔也も楠瀬も、ホッとしたような寂しいような、なんとも複雑ではあるが、咲恵は怒涛の勢いで陽に質問責めだ。
これは、陽の意思を確認すると言うよりは、朔也に対して決心を促すためなのだろう。
『学校までは、誰かが送り迎えできるけど』
学校に行ったら朔也も楠瀬も咲恵もいない。何人かの教師と友達と、そして陽とで学校生活を送ることになる。それでも大丈夫かと問えば、陽は力強く頷く。
今まで見られなかった仕草と瞳の色からは陽なりの決心が感じられる。
それほどまでに、学校と言う場所が陽には魅力的に見えたのだろう。
陽が頷いたところで、咲恵は朔也を見上げ
『だそうよ』
と一言。わかりやすい報告だ。
入学時に提出書類は今日のうちに預かっている。
いつからでも通学させるようにと南雲にも松田にも言われている。
通学するにあたって必要な物を揃えるのにも、それほどの時間はかからないだろう。一般的な学校と違い、学校指定の物等があるわけではない。
ただ、その前に。
『念のため、吾妻に調べさせます』
工藤の紹介なのだ。調査の必要があるとは思えないが、念には念をと言うのが朔也にも吾妻にも染み付いているのだ。
『違うな』
結局、陽の入学を少しでも遅らせたいだけなのだ。
入学準備と平行して、調査を進めることを決めた朔也からは思わず知らず、溜め息が溢れるのだった。
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