太陽と月

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陽にとって「学校」と言う響きは、どこか他人事のようで、どこか憧れのようでもあった。

文字や四則計算は、咲恵や楠瀬が生活の中で教えてはいたが、社会性と言った部分では身についていないことの方が多い。

順番通りで言うならば、朔也や今の取り巻きよりも陽は後まで生きることになる。
そうなっても困らないだけの動産、不動産を残してやることはできても、それ以外のものは残してはやれない。

そして常に控え目な楠瀬からの助言も大きかった。

『保育士である僕ができることは、もう少ない』

陽に必要なのは、保育士ではなく小学校や中学校の教諭なのではないかと言う。

常に陽を想い寄り添っている楠瀬が言うのだ。
楠瀬は陽から離れる寂しさよりも、陽の将来を考えている。

それなのに。

朔也はと言えば過ぎる独占欲で、陽を社会から隔離した生活を送らせている。
それでも、陽が幸せなようにと考えていると言うのは言い訳だとわかっていながら。

『さくやも  いっしょ?』

工藤によれば、入学前の面接と、その後の登校一日目だけは保護者が同伴できるのだと言う。

『ああ。最初は一緒だ』

この1年余で確と成長した陽は朔也の含みのある言い方に気付いている。

『じゃぁ、さいしょだけ  いく』

朔也が同行できるだけ行くと言い出す。

この時点では、陽に無理強いするつもりはない。
工藤がこの話を持ちかけた時も、他のフリースクールも含めた選択肢の1つとして見学だけでもしてみてはどうかと提案されていた。

それは陽にとっての猶予期間のようであり、実は朔也にとって猶予期間なのかもしれない。

いずれにしても、このまま陽を社会に触れさせないと言うのは良いわけがない。

一概にフリースクールと言っても様々な形態がある中で工藤が態々持ってきた話なのだ。陽にとって申し分のない施設だからこその提案だろう。

であれば、今後のことを含め変に誤魔化すのには無理がある。

学校には陽だけで行けるようになって欲しい。
家では今まで通り、朔也と2人で過ごしてほしい。
鹿島や楠瀬、そして咲恵も学校の時間以外は一緒に過ごせる。

そして、陽がどうしてもと言うなら、この学校に行かなくてもよい。

『だから陽』

俺と一緒に学校を見に行ってみよう。

逃げ道を作った上で陽を誘ってみる。

納得したような、していないような、そして少々懐疑的な目を朔也に向ける陽だった。
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