太陽と月

贖罪

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やはり朔也はヤクザだ。

贖罪などと生易しいものではなく、亜美と南野にはキッチリと落とし前をつけさせるつもりだ。

そして、こう言った状況で力を発揮するのは今回も辰星会の工藤だ。

吾妻曰く、篠崎の処分を任せた際に再開発事業と言う大きな礼をした結果、今回も相応の見返りを求めているのではないかと本気で言うが

―――――――

朔也は真実に気付いている。
逆に気付かない吾妻の鈍感ぶりは工藤に対して同情さえ覚える。
普段は野生で生き抜く獣ほどに鋭い勘を働かせる吾妻が、自身に向けられる好意にここまで気付かない。
確かに日頃から媚びへつらう偽物の好意を向けられることはあっても、純粋な好意を向けられることは殆どない。職業柄、仕方のないことなのかもしれないが好意的な視線には朔也も吾妻も慣れていない。

それにしても

このままでは、やはり工藤が可哀想ではないか。一見朔也の為に動いてくれた工藤は吾妻を想い面倒な汚れ仕事を引き受けようとしているのに。

ただ、吾妻はゲイでもバイセクシャルでもない。と言うより恋愛や性愛に興味があるのかも怪しいと朔也は思っている。

吾妻は学生時代から欲を満たす手段は得ていたが、特定の相手に想いを寄せたり、深い関係になったことがない。
朔也が知らないだけ、と言うのも考え難い。何せ恋人と呼ばれるような間柄よりも共に過ごす時間は長かったのだから。

陽と言う唯一無二を手に入れた朔也が吾妻にも、そんな存在をと思ってしまうのは、独りよがりなのだろうか。

今後2人の関係がどうなっていくのかは解らないが、工藤は悪い男ではない。そしてそれは朔也よりも吾妻の方がよく知っているはずだ。

今回工藤が亜美と南野に対して用意した報復の詳細が朔也と吾妻宛にメールで届いている。

スマートな言葉が選ばれてはいるが、報復の方法はエグい。

誰もがわかりやすい言葉で説明するなら、南野は顧客として成人男性をターゲットにした風俗に身を沈めるのだ。
小児性愛と言う特殊な性癖を持った南野には耐え難いだろう。
上場企業で一流と言われた男は今後、男に体を売って生きていくのだ。

そして、亜美の方はと言えば、こちらはもっと簡単だった。警察にその身柄を引き渡したのだ。しかも、情報をマスコミにリークした後で。

ただ警察に引き渡すだけでは、不知火議員により事実が闇に葬られてしまう可能性があった。
だからこそ、何社かのマスコミを使ったのだ。

不知火議員も、亜美も、そして官僚である亜美の父親も大きな傷を負った。

これが工藤が南野と亜美に用意した贖罪の方法だったのだ。
ヤクザなやり方だ。工藤は吾妻に汚れ仕事をさせたくないがために、自ら動いたのだろうと朔也は踏んでいる。

工藤のために一肌脱ぐのは構わないが、肝心の吾妻は工藤をどう思っているのだろう。
同性同志で、と言うのをどう思っているのだろう。

『本人に聞いてみるか』

それは、成り行きで面倒事に付き合わせてしまった工藤に対する朔也の贖罪なのかもしれない。