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歪んだ愛情
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『お前、陽に何をした?』
これまで空気を読んだことなどなかった亜美は、今回も全く空気を読まない。いや、読めない。
『朔也さんを自由にしてさしあげたのよ』
これで2人の生活に邪魔なものがなくなったのだと熱に浮かされたような声と表情で、それでも真剣に言っている。
亜美の言っていることが、全くわからない。いや、亜美の言ってること全てが間違いなのか。
『俺は今までも、これからも自由だが?』
それに、と続く言葉は当然だが亜美の発言の全てを否定するものになる。
亜美の言う2人の生活とやらが、朔也と亜美の生活を指しているのならば、1度も望んだことはないし、これからも不要なものだ。
そして
邪魔なものとは?陽のことを邪魔などと思ったことはない。常に誰よりも大切で必要な存在だと感じている。
『邪魔なのはお前だ』
朔也に言い捨てられた亜美は、すぐに意味が理解できなかったのだろう。それでも凍り付きそうなほど冷たい朔也の声音に自身の立場をなんとなく理解したのだ。
小刻みに震え出した亜美に朔也が再び問う。
『お前、陽に何をした?』
亜美が答える前に朔也のスマートフォンが鳴る。吾妻からだ。
『陽くんがいない』
風間や他のコンシェルジュは、コンシェルジュルームで意識のない状態で縛り上げられていた。
朔也の自宅では、玄関で楠瀬と鹿島が折り重なるように気を失い、リビングでは咲恵が倒れていた。
目立った外傷がある者はいないが、意識の混濁具合から何らかの薬物が使われた可能性がある。
今日は駅前再開発の件で工藤と行動を共にしていた吾妻は全員を工藤総合病院へ搬送する段取りを済ませつつ、陽の手がかりを探した。
一度通話を終わらせ朔也が亜美に向き直ると、未だ小刻みに震えたまま口を開く。
『あの子供なら、南野に処分を任せましたわ』
だから自分は今、陽がどこにいるのかなど知らないし興味もないと言う。
『すぐに南野に連絡をしろ』
有無を言わせぬ朔也の言動に、バッグからスマートフォンを取り出し3度タップした亜美は相手の応答を待っているのだろう。
一向に始まらない通話に業を煮やした朔也が亜美からスマートフォンを奪い、南野の電話番号を確認する。
常に組事務所に詰めているハッカーに南野の携帯電話の番号を伝えれば、何か掴めるかも知れない。
一縷の望みをかけ、何かわかればすぐに連絡するよう伝え、一旦通話を切ったのだった。
『なぜ?あんな子供、邪魔なだけですわ』
答える義理などない。しかし、これだけは伝えておこうと思う。
『陽になにかあったら』
お前もただで済むと思うな。
絶対零度の朔也の瞳に亜美が映ることはなかった。
これまで空気を読んだことなどなかった亜美は、今回も全く空気を読まない。いや、読めない。
『朔也さんを自由にしてさしあげたのよ』
これで2人の生活に邪魔なものがなくなったのだと熱に浮かされたような声と表情で、それでも真剣に言っている。
亜美の言っていることが、全くわからない。いや、亜美の言ってること全てが間違いなのか。
『俺は今までも、これからも自由だが?』
それに、と続く言葉は当然だが亜美の発言の全てを否定するものになる。
亜美の言う2人の生活とやらが、朔也と亜美の生活を指しているのならば、1度も望んだことはないし、これからも不要なものだ。
そして
邪魔なものとは?陽のことを邪魔などと思ったことはない。常に誰よりも大切で必要な存在だと感じている。
『邪魔なのはお前だ』
朔也に言い捨てられた亜美は、すぐに意味が理解できなかったのだろう。それでも凍り付きそうなほど冷たい朔也の声音に自身の立場をなんとなく理解したのだ。
小刻みに震え出した亜美に朔也が再び問う。
『お前、陽に何をした?』
亜美が答える前に朔也のスマートフォンが鳴る。吾妻からだ。
『陽くんがいない』
風間や他のコンシェルジュは、コンシェルジュルームで意識のない状態で縛り上げられていた。
朔也の自宅では、玄関で楠瀬と鹿島が折り重なるように気を失い、リビングでは咲恵が倒れていた。
目立った外傷がある者はいないが、意識の混濁具合から何らかの薬物が使われた可能性がある。
今日は駅前再開発の件で工藤と行動を共にしていた吾妻は全員を工藤総合病院へ搬送する段取りを済ませつつ、陽の手がかりを探した。
一度通話を終わらせ朔也が亜美に向き直ると、未だ小刻みに震えたまま口を開く。
『あの子供なら、南野に処分を任せましたわ』
だから自分は今、陽がどこにいるのかなど知らないし興味もないと言う。
『すぐに南野に連絡をしろ』
有無を言わせぬ朔也の言動に、バッグからスマートフォンを取り出し3度タップした亜美は相手の応答を待っているのだろう。
一向に始まらない通話に業を煮やした朔也が亜美からスマートフォンを奪い、南野の電話番号を確認する。
常に組事務所に詰めているハッカーに南野の携帯電話の番号を伝えれば、何か掴めるかも知れない。
一縷の望みをかけ、何かわかればすぐに連絡するよう伝え、一旦通話を切ったのだった。
『なぜ?あんな子供、邪魔なだけですわ』
答える義理などない。しかし、これだけは伝えておこうと思う。
『陽になにかあったら』
お前もただで済むと思うな。
絶対零度の朔也の瞳に亜美が映ることはなかった。
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