太陽と月

歪んだ愛情

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吾妻の迅速な調査により、不知火亜美がスポーツジムのラウンジで金を渡していた男素性が明らかになった。

名は南野  哲人。歳は35歳。

何年か前に一部上場のIT関連の企業に身を置きながら所謂産業スパイとして、懲役刑を喰らった輩だ。
一企業戦士としては、余りに優秀だった男だが、その優秀さが仇となり罪を償った後の再就職が困難を極めた。要は企業側が男を怖がったのだ。
敵に回していい男ではないが、前科から考えると味方につけても危険だと判断された。

元々の地頭がいい男なのだ。生きていく術など簡単に見つける。
マーケティングリサーチの会社を開業し様々な分野での調査及び分析を請け負っているが、公明正大に行えるような仕事ばかりを請け負っているわけではないようだ。
国会議員や有名人の弱みを探し、それをネタに強請をしていると言う噂もある。

噂と言っても吾妻が掴んできた情報だ。主婦の井戸端会議で上がる噂話とは訳が違う。
金さえ用意すれば、正確な情報を掴む。それが南野哲人と言う男。

南野は元々、亜美の祖父である不知火議員から仕事の依頼を受けることが多く、亜美とも顔見知りではあったようだが、南野に対して亜美が仕事を依頼を出すのは今回が初めてだったようだ。

亜美が南野に手渡していた封筒にはかなりの厚みがあった。かなりの大金が渡っているはずだ。
亜美自身は祖父や父の脛をかじって生活しているため貨幣価値や金銭感覚は多くの同世代の女性とはズレているかもしれない。
それにしても、南野に大金を払ってまで朔也の何を調べようとしているのだろうか。

時間の問題で陽の存在は明るみになる。何せ朔也の戸籍に入っているのだから。

それこそ、陽の存在で不知火から今回の話はなかったことにと言われれば喜んで受け入れるのだが、そんな希望的観測は危険だ。

不知火議員も亜美も、朔也と亜美の結婚に陽が邪魔だと判断すれば、どうするのか。

陽に何かあれば、多くの犠牲を出してしまいそうな己の凶暴性に蓋をするため、先手を打つつもりではいるのだが、創世会総裁の八神への義理立てを考えれば不知火に対して余りなことはできない。

こう言った話は土門が頼りにならない。他人事は面白いと高みの見物を決め込むだろう。

何がどうなろうと、最終的には陽の穏やかな生活を守ることができればかまわない。

『さて、不知火亜美は何を知りたい？』

南野に何を調べさせている？