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天岩戸
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結局あの女は、馬鹿なのか?無知なのか?それとも何か重大な勘違いをしているのか?
大して興味はないが、亜美は時間が欲しいと言っていた。時間を永遠に作ったままにしておく、と言うのもいいかもしれないが、適当なところで亜美の男遊びを解禁してやらねば、亜美も身体をもて余すだろうし、取り巻きの男達も生活苦となる恐れがある。
そして、それ以上の難題が浮上してしまった。亜美は朔也に一目惚れした。それはそれは解りやすく一目惚れした。
だが、それは朔也にとって邪魔な感情でしかない。相手が小娘と言うこともあり油断も隙も大きかったが、キスされたことに関しては虫酸が走るほどの嫌悪感があった。
毎日陽と繰り返しているキスはあんなにも甘やかで、かつ神聖なものなのに。
『なぁ維新』
あの阿婆擦れ、どう出ると思う?
辛辣な言葉を選ぶ朔也に吾妻も
『生憎宇宙人の考えてることは理解できないんでね』
と訳のわからない会話が、なんとなく成り立つ。
『それにしても』
眉間に皺を寄せたままの吾妻が少し考えている。
『不知火亜美が金を払えば動く輩は少からずいる』
くだらない小者だと思わずに用心しろと言う。
篠崎に銃撃された時のことが頭を過る。二の舞は踏まない。
『ああ。わかってる』
どうでもいい小娘にこれ以上時間もエネルギーも割くつもりはない。2人揃って軽く息を吐き出したところで、店の一階から声がかかる。
『天海ぃ~、吾妻ぁ~、テイクアウトの料理全部上がったぞー』
若い頃から世話になっている大将の声だ。毎日鹿島の料理を食べている陽に、たまには違う味を。
そして、毎日陽の為に手間を惜しまないメンバー達への差し入れだ。
今日は少し遅めの昼食を自宅で共にと約束してある。
不知火議員も亜美も、とにかく面倒な相手だった。少々疲れてしまったが、陽と昼食を共にすれば、最上級の癒しを得られることを朔也は知ってる。
『大将、ありがとう』
領収書のいらない金を多めに渡し、料理が冷めないうちにと家路を急ぐ。
そして朔也は、結局同じ轍を踏むことになるのだが、気付くのは自宅の玄関で陽の出迎えを受けてからのことだ。
いつもと違う匂いをつけて帰ってきた朔也に、陽は今回も全身で拒否の意を表していた。
浮気を疑ってのことだろうが、陽は、その単語も単語の意味も知らないのだが。
まさに本能の部分で何かを感じ取ったのだ。
すぐに気付けなかった朔也に、余計に反発したのだろう。
ゲストルームに籠り、その日の夜、楠瀬の説得で漸く半日に及ぶ籠城を切り上げた陽だった。
正しく天岩戸。陽がいないリビングは光の入らない暗闇よりも、もっと暗く感じたのだから。
以前はソープランドのボディソープの匂いで。
今回は不知火亜美の振り袖に焚き染められた香のせいで、すっかり臍を曲げた陽は、やはり頑固だ。
朔也からすれば、それすらも可愛くて仕方ないのだが。
シャワーを浴びて、いつもの匂いに戻った朔也は、その日、眠りに就くまで陽を膝の上で過ごさせた。
今日だけで何度、陽への愛を伝えただろうか。数えるようなことはしないが、朔也はそれに費やす時間が嫌いではなかった。
大して興味はないが、亜美は時間が欲しいと言っていた。時間を永遠に作ったままにしておく、と言うのもいいかもしれないが、適当なところで亜美の男遊びを解禁してやらねば、亜美も身体をもて余すだろうし、取り巻きの男達も生活苦となる恐れがある。
そして、それ以上の難題が浮上してしまった。亜美は朔也に一目惚れした。それはそれは解りやすく一目惚れした。
だが、それは朔也にとって邪魔な感情でしかない。相手が小娘と言うこともあり油断も隙も大きかったが、キスされたことに関しては虫酸が走るほどの嫌悪感があった。
毎日陽と繰り返しているキスはあんなにも甘やかで、かつ神聖なものなのに。
『なぁ維新』
あの阿婆擦れ、どう出ると思う?
辛辣な言葉を選ぶ朔也に吾妻も
『生憎宇宙人の考えてることは理解できないんでね』
と訳のわからない会話が、なんとなく成り立つ。
『それにしても』
眉間に皺を寄せたままの吾妻が少し考えている。
『不知火亜美が金を払えば動く輩は少からずいる』
くだらない小者だと思わずに用心しろと言う。
篠崎に銃撃された時のことが頭を過る。二の舞は踏まない。
『ああ。わかってる』
どうでもいい小娘にこれ以上時間もエネルギーも割くつもりはない。2人揃って軽く息を吐き出したところで、店の一階から声がかかる。
『天海ぃ~、吾妻ぁ~、テイクアウトの料理全部上がったぞー』
若い頃から世話になっている大将の声だ。毎日鹿島の料理を食べている陽に、たまには違う味を。
そして、毎日陽の為に手間を惜しまないメンバー達への差し入れだ。
今日は少し遅めの昼食を自宅で共にと約束してある。
不知火議員も亜美も、とにかく面倒な相手だった。少々疲れてしまったが、陽と昼食を共にすれば、最上級の癒しを得られることを朔也は知ってる。
『大将、ありがとう』
領収書のいらない金を多めに渡し、料理が冷めないうちにと家路を急ぐ。
そして朔也は、結局同じ轍を踏むことになるのだが、気付くのは自宅の玄関で陽の出迎えを受けてからのことだ。
いつもと違う匂いをつけて帰ってきた朔也に、陽は今回も全身で拒否の意を表していた。
浮気を疑ってのことだろうが、陽は、その単語も単語の意味も知らないのだが。
まさに本能の部分で何かを感じ取ったのだ。
すぐに気付けなかった朔也に、余計に反発したのだろう。
ゲストルームに籠り、その日の夜、楠瀬の説得で漸く半日に及ぶ籠城を切り上げた陽だった。
正しく天岩戸。陽がいないリビングは光の入らない暗闇よりも、もっと暗く感じたのだから。
以前はソープランドのボディソープの匂いで。
今回は不知火亜美の振り袖に焚き染められた香のせいで、すっかり臍を曲げた陽は、やはり頑固だ。
朔也からすれば、それすらも可愛くて仕方ないのだが。
シャワーを浴びて、いつもの匂いに戻った朔也は、その日、眠りに就くまで陽を膝の上で過ごさせた。
今日だけで何度、陽への愛を伝えただろうか。数えるようなことはしないが、朔也はそれに費やす時間が嫌いではなかった。
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