太陽と月

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煌めく太陽 満ちる月

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ソワソワ感の否めない朔也だが、仕事は普段通りこなしている。特段能率が落ちることもなく、洞察力や直感も鋭いままだ。

それでも、いつもとは違う朔也に気付く輩が1人。言わずと知れた吾妻だ。

朔也の執務室で2人きりになれば、落ち着きのない朔也を見るなどレアだとおちょくられる。しかし吾妻も

『今日のパーティーは俺も行く』

と自ら手を挙げていた。仕事以外のパーティーに積極的に参加しようなどと言う吾妻もレアだ。
吾妻にパーティーは楽しむものなどと言う思考は微塵もない。情報収集と顔繋ぎの手段であり、腹を探り合うための場所である。

でも今夜は。
純粋に陽の成長を祝うためのパーティーなのだ。プレゼントだって妹の菜々子のアドバイスを受けつつ用意した。
ビジネスではなく楽しむことが許される、楽しみたいと思うパーティーなど子供の頃以来ではないだろうか。

『陽くんが皆に祝福される存在だと実感して欲しい』

それは、陽に関わる人間全ての共通の願いだ。長谷美由紀との生活は決して幸せなものとは言えなかったはずだが、それに疑問を持たず受け入れる他ない時間を過ごしてきたのだ。

余りに遅すぎる産まれて初めてのバースデーパーティーで皆が陽の存在を大切に思っているのだと、少しでも感じてくれたらいいと思う。

『陽くんは、朔也のこと、どう思ってるんだろうな』

陽の中で朔也はどう位置付けられているのか。それは朔也にとっても気になるところではある。

性愛など知るはずもない陽だが、家族愛も知らずに長谷美由紀と生きてきた。

朔也や周囲からの愛情を愛情と認識できているのだろうか。
できていたとしても陽はまだ、それの名を知らない。

それでも、周囲からのそれと朔也からのそれに何か違うことに気付いているはずだ。

トイレや風呂も朔也以外を伴うことはないし、時折見せる甘えも朔也に対してだけなのだから。

で、あれば今はまだ、一番に甘えられる相手だと思ってくれていればいい。

そして、これからもそんな存在であり続けたいと思う。

人を育てるのに甘やかしてばかりではダメだと朔也も身をもって知ってはいるが、もう少しの間だけ。陽がもう少し大人になるまでは、際限なく甘えて欲しい。

今夜のパーティーだって、周囲の誰よりも自分に甘えてくれればいい。

そんなことを考える朔也の表情が甘やかで優しすぎて、組員達には絶対に見せられないと感じた吾妻だった。
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