太陽と月

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続く朔日

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一方その頃、箱根では本格的に陽の体調が悪くなりつつあった。
ほとんど食事が摂れないにも関わらず、嘔吐を繰り返し、衰弱し疲弊した陽の体は悲鳴を上げていた。

これ以上の衰弱を食い止めるべく佐伯により用意された鎮静剤を楠瀬が宥めたり誉めたりしながら飲ませ、意識が薄れたところで咲恵が点滴を取り出す。
さすがは小児医療の元看護師と言ったところだ。細い血管を探ることもなく難なく針を留置させる。

『本当は少しでも食べさせたいわね。病気ではないから』

そんな咲恵の提案で鹿島も喉ごしがよく栄養価の高いデザートをいくつか用意した。

『皆に相談があるんだけど、少しいいかい?』

北見を含む別荘にいる全員をリビングに集めた佐伯が、迷うように考えるように話し始める。本当に相談なのだ。

『皆が知っている通り、まだ若の目が醒めない』

それでも脳にも臓器にも以上がなければ、数日で個室に移されるはずだと佐伯は言う。
咲恵が隣で頷いているのを見れば、医療従事者としては当たり前の見解なのだろう。

『若が個室に移ったら、陽くんを連れて行ってみようと思うんだ』

それは陽の為であり朔也の為でもある。しかし、目を醒まさない朔也を目の前に、陽がどれだけのショックを受けるのか計り知れないのだ。

2人を逢わせてやりたい、その一方で逢わせるべきではないのかもしれないと佐伯は答えを出せずにいた。陽をよく知るメンバーに相談することで、答えを出そうとする。
もちろん、それで陽の心身に不調が起これば佐伯が徹底的に付き合うつもりはある。責任は自らが取ることは決めているが、逢わせた方がいいのか、逢わせない方がいいのか皆の意見を聞きたかったのだ。

『逢わせてやった方がいいんじゃないか?』

一場に口を開いたのは北見だった。なぜ朔也が迎えに来ないのか、来れない事情があるのだと理解すれば陽が楽になれるのではないかと言う。

『僕は今の陽くんに、今の若を会わせることが不安です』

常に控え目な楠瀬だが、保育士だけのことはある。陽に心を寄り添わせ、陽のことを一番に考えたのだろう。目を醒まさない若を見たら、恐怖や不安で陽の心が壊れてしまうのではないかと憂慮する。
ただ、やはり謹み深い楠瀬は自分の意見をごり押しするようなことはない。

『陽くんを若に会わせて、辛い想いをしたのなら』

全力でサポートするとも言う。皆それぞれが陽を想い朔也を想い、意見を出し合うが最終的には咲恵が締める。迷う男達の意見を纏められるのは咲恵だけなのだろう。

『逢わせてあげましょう。2人のために』

そう。もっと簡単に根本を考えるべきだったのだ。陽も朔也も互いに逢いたいと、そう思っているはずなのだ。
逢ったことでどんな結果になったとしても、今の2人の想いを尊重してこそのサポートチームだろう。

そうと決まれば、少しでも陽の体調を戻すことを考えなければならない。

『デザートであれば、食べやすいかもしれません』

ここ数日、数種類のデザートを用意し続けていた鹿島が、更に陽が口にしそうなデザートを考えると言う。陽は元々鹿島の作る料理が好きだ。鹿島も陽の嗜好を理解している。
少しでも食べられればと願いながら、鹿島は今夜も試行錯誤するのだろう。

『若が個室に移れば吾妻君から連絡が来るだろう』

そしたら陽くんを連れて一度都内に戻ろう。

1人では出せなかった答えを出し、佐伯は安堵のため息を吐いた。
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