太陽と月

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続く朔日

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箱根から戻ったその足で、吾妻は工藤総合病院へと向かった。

集中治療室への立ち入りが許可されるようになり、目を醒まさない朔也のベッド脇に腰を下ろした吾妻は箱根で目の当たりにした陽の様子を朔也に聞かせた。返事はないが陽のことを話せば覚醒のための刺激になるのではと一縷の望みをかけていた。

しかし現実はそう甘くない。朔也からの反応はない。

『いいか朔也。必ず目を醒ませ』

でなければ、あの儚げな少年は、新月の夜のような暗闇で1人置いていかれたような寂しさを感じ続けることになる。それは朔也も辛いだろ?

集中治療室前に2人の組員を残し、吾妻は組事務所へと戻った。朔也がいないからと言って仕事が減るわではない。そればかりか朔也の代行が可能なのは吾妻だけなのだ。こなさなければならない仕事が多すぎる。

『仕事だ』

1人言つ吾妻は執務室に籠りパソコンを立ち上げると、まずは駅前の再開発事業のフォルダをクリックする。
今回の工藤の働きへの対価だ。うん十億の金が動く。これであれば工藤個人に対しても辰星会に対しても過不足のない対価となるだろう。

実際吾妻の胸中では、どれ程のことをしても不足だと思ってしまう程に工藤に対して恩義を感じている。
ただ極道に身を置く人間としては過ぎる謙虚さを持ち合わせた工藤に対して、過分な礼は却って恐縮させてしまうことになる。
それにのだ。うん十億の金が動くから相応の利益が上がるわけだが、工藤であれば間違いなく1つ桁の違う利益を生み出すはずだ。創世会への上がりは多い方がいい。
明星会の会長はビジネスに関しては朔也に一任している。朔也が動けぬ今はそれを吾妻が代行する。代行者の決済額としては些か大きい気もするが、これに関しては会長も朔也も何も言わぬはずだ。
考え方によっては、朔也の命の額なのだから、安すぎるとも思う。

明星会のフロント企業と辰星会のそれとが取り交わす契約書を作り、顧問弁護士へとメールで送信したところで、吾妻の執務室のドアがノックされた。

『麻生です。入室のご許可を』

普段冷静な麻生の声に僅かに焦燥感が混じっていることから、何か急ぎの用なのだろうと入室を促す。

静かに開けられたドアの向こうには麻生と、そして創世会幹事長の土門の姿があった。

『天海が大変だったなぁ』

人を食ったような口調ではあるが、土門にそんな意図があるわけではない。本当に心配していなければ多忙な土門がわざわざ明星会事務所にまで足を運ぶことはないからだ。

『見舞いだ』

結構な厚みの茶封筒をソファテーブルにトンと置き、自身もソファへと腰かけた土門は、麻生にコーヒーを入れるよう指示を出す。人払いが必要な話と言うことか。

麻生がドアを閉めるのを待ち、土門は鷹揚と話し始めた。
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