太陽と月

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再燃する憎悪

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救急車が到着後、すぐに緊急手術となった。薄暗い廊下のソファに一度は腰を下ろした風間だが、両の手を見て苦笑する。己が傷を負ったほどに血塗れになっているのだ。
それを洗い流し手術室の前に戻れば、吾妻が麻生を従え到着したところだった。

『風間さん』

最敬礼の吾妻に頭を上げるように促し、風間も頭を下げる。

『すまない。若を守れなかった』

油断があったと言う風間だか、それが撃たれた理由ではない。朔也に対する一方的な篠崎の私怨。そして結果を急いて無謀な行動に出た朔也の脇が甘かったのだ。
先代組長を支え、現役を退いた風間だが衰えはない。篠崎の姑息さと執念が勝った、ただそれだけだ。

『朔也は、こんなことじゃ死にません』

きっぱりと言い切った吾妻だが、風間にと言うよりは自身に言い聞かせているのだろう。

『執刀医は外科部門で一番優秀な人物らしいです』

工藤の計らいに相応の礼を用意するつもりだが、それを受けないのが工藤だ。フロント企業での利益が潤沢だからと言う理由で断った挙げ句に見舞まで寄越しかねない男だ。
極道としては可愛げがないと思われがちな遣り口だが工藤なりに礼を尽くしていることは朔也も吾妻もわかっている。
何か他の方法で、こちらも礼を尽くさねばなるまい。

そこで吾妻はふと気付く。今それを考えなければならないわけではない。つまりは現実逃避をしたかった己に気付いたのだ。

そんな吾妻の思考に気付いたのか気付かないのか、風間は手術室に繋がる自動ドアを見つめながら、訥々と言葉を紡ぐ。

『意識のハッキリしない若が何を言ったかわかるか?』

吾妻は十中八九正解だと思われる答えを用意した。

『陽くんの、ことですか?』

元々、陽を早く迎えに行きたいが為に無謀な行為に出たのだ。今の朔也であれば他の何よりも陽のことを案じたはずだ。

小さく頷いた風間は、若はもっと強くなる。極道としても経営者としても、そして人としても強くなる、と断言する。

『守るものができた人間は、それまでとは比較できないほど強くなる』

と。
朔也はこれまでも、明星会を守り、フロント企業を守り、創世会も守ってきた。それとは別物なのだと風間は言う。

『確かに、あの少年が朔也のアキレス腱になってしまうだろうが』

若なら守りきるさ、とお気楽とも取れる声音で優しく優しく語る風間が吾妻に向き直る。

『だからな、維新』

お前と俺で若も陽も守るんだ。そうすれば若は安心して組とフロント企業を守ることができるのだから。

吾妻が大きく頷いたタイミングで、手術室と廊下を隔てていた自動ドアが開いた。

スクラブの胸元をびっしょりと汗で濡らした執刀医が、吾妻と風間に歩みよった。
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