太陽と月

ko

文字の大きさ
上 下
106 / 197
再燃する憎悪

103

しおりを挟む
その日の夜遅く、朔也は陽を連れ箱根の別荘に入った。

念のためマンションの駐車場には国産のミニバンが2台用意されていた。普段は朔也自身も組の人間も使わない自動車で所有者から調べても明星会には辿りつかない自動車だ。
運転手も佐伯の伝手で明星会とは無関係の人間に依頼している。
ここまでせずとも篠崎等が朔也と陽の移動に気付けるほどの聡明さは持ち合わせていないだろう。
しかし、陽をほんの少しでも危険な目に遭わせるわけにはいかない。過ぎるほどの緻密さで箱根まで陽を移動させるのだ。

長く見積もって3日。陽は初めて朔也から離れ箱根に滞在することとなる。
万全を期すため、楠瀬と鹿島そして咲恵だけでなく佐伯にも同行を依頼している。

その際、咲恵にも佐伯にも割増の別料金を提示したが2人は口を揃えて、箱根の温泉旅館に宿泊するのと同様だからと断られてしまう。逆に宿泊費を支払わなければならない、とまで。
咲恵はともかく佐伯までが、そんなことを言う。これも陽の魅力のせいなのだ。
老若男女問わず陽は誰をも魅了する。

『陽、お前は結構罪深いな』

御殿場インターを通り過ぎる頃には朔也の膝枕で寝息を立て始めた陽の髪を撫でながら柔らかな感触を楽しんだ。

『若、お待ちしておりましたよ』

箱根の別荘の管理を任せている北見が出迎える。今でこそ好々爺然としているこの男性も風間同様、先代組長を支えた幹部の1人だった。隠された鋭い眼光もその頃の名残だ。

『世話になります。もっとも俺はとんぼ返りですけど』

眠ったままの陽を腕に抱き、早々にリビングに入れば照明が明るかったのだろう。陽がモゾモゾと動きだし目を覚ます。

『あぁ陽、起こしちまったな』

ソファに座らせたところで、北見に陽を紹介すれば、正に孫を見守るような眼差しとなる。

『陽くん、ここにいる間はじいちゃんと遊んでくれるかい?』

箱根に来るにあたり、陽には朔也が側にいられないことを言い含めては来たが、何かに堪えるように陽の体に力が入った。

『さくやが、むかえにくるまで、ここで、おるすばんする』

ヤクザな事情に巻き込まないためとは言え、毎日共に過ごしているのだ。陽の不安は朔也の不安でもある。

を済ませたら、すぐに迎えに来るから』

だから、待っててくれるか?

『まってる』

纏わり付いて離れない陽を朔也自身も膝から降ろす事ができず、最終的には咲恵により強制終了がかかったことで、漸く朔也が自宅へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...