太陽と月

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違和感の正体

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陽の容態に何かあれば、夜中でも連絡することを約束させ、佐伯が帰宅の途についた。

鹿島が用意してくれた食事に手を付けたが、陽のいない食卓に寂しさを感じるのは仕方ないだろう。

それでも、きっちり1人分の食事を平らげ、シャワーを済ませたところで鹿島と楠瀬も下がらせる。

『明日は咲枝さん、いつもより早くお見えになるとおっしやっていました』

帰り際、エプロンをたたみ終えた楠瀬が朔也に声をかけた。陽の様子がわかるように少し開けられたままのゲストルームのドアに憂い混じりの視線を向けている。

『陽さん早く熱が下がるといいですね』

明日の朝は消化の良い物を用意いたしますので。キッチンを片付け終えた鹿島も陽の体調に合わせた食事を提供できるよう心を砕いている。

それは若頭である朔也が望んでいるからと言う理由だけではない。
陽に関わる人間は皆、陽の安寧と幸せを願っている。

そして朔也は、そのことに安堵すると共に子供染みた独占欲も強くなる。

「陽は俺のもの。俺だけのもの。」

1人グルグルと考え、やや険しくなった表情は見逃して欲しいものだ。

『陽くんの着替え、ゲストルームに置いてありますので』

楠瀬の言葉を最後に、2人は逃げるように玄関のドアを閉めた。

改めてゲストルームのドアを開け、少し苦しそうに眠る陽の髪を梳くように撫でる。
熱のせいだろう。額や首筋に薄らと汗が滲んでいる。
眠りを妨げてまで着替えさせるのは、些か気が引けるが、汗をかいたまま寝かせておくのもよくないだろう。

陽を起こそうか、起こさずに着替えさせようか逡巡する朔也に気づいたかのようなタイミングで陽の長い睫が微かに揺れ始める。

『陽、目が覚めたか?』

朔也の姿を捉えた黒目がちな瞳に安堵の色が見て取れる。

『おしっこ』

モゾモゾと起き上がろうとする陽を手伝い、ベッドの上に座らせる。
体がぐらつくようなこともなく、自らベッドを降りようとする陽を抱き上げ、トイレへと向かった。

「今は仕方ないだろう?熱があるのだから」

いったい誰に対して何に対する言い訳をしているのか、よくわからない。

もう何度こうして陽のトイレに付き合っただろうか。何度付き合っても慣れることはない。

これは修行。陽により齎される朔也の為の修行。多くの宗教でも修行には禁欲的な傾向が見られるではないか。天使な陽を守るためには、この程度の修行など他愛もないことだ。

今回も無事に乗り切って見せる。

鼻息荒くトイレと言う名の戦場に乗り込んだ朔也は、今回も無事に帰還することができた。

妙な汗をかいてしまったが、陽には気づかれなかったはずだ。
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