太陽と月

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違和感の正体

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一見穏やかな印象の男からは、確かに裏を感じる。

これまで表の仕事でも裏の仕事でも様々な種類の人間と対してきた朔也には、その男の裏の顔が透けて見えたのだ。

容姿は綺麗だ。長身だが体の線は細く中性的な印象を受ける。
そして頭のいい人間ではないだろうし真っ当な生き方をしてきた人間には見えない。
なんと言うのか、薄っぺらな狡猾さを感じる男だ。

改めて事前に用意されていた身分証明書と履歴書を見直せば、朔也の脳内で1つの結論が導き出された。

男の名は前田達也。年齢は33歳。年齢よりも随分と若く見えるのは洋服や髪型のせいだろうか。

前田達也。

タツヤ。

黒目がちの大きな瞳。

すぐさまスマートフォンの履歴から吾妻の名をタップする。

『前田達也だ。前田達也を調べろ』

それだけを伝えれば、聡い吾妻には解ったのだろう。

『かしこまりました』

短い会話を終え、再びモニター越しに前田達也を観察する。

一見、人好きのする笑顔を店長に向け、前職は女性をターゲットとした性感マッサージ店でセラピストをしていたのだと軽い口調で語っている。

結婚の経験はなく、両親は達也の中学卒業を目前に亡き人となった。中学卒業後、繊維工場に就職したが、2年ほどで退職してからは定職には就かず根無し草のような生活を続けていた。

名は「タツヤ」
年齢は33歳

そして、陽のそれを写したような黒目がちの大きな瞳。

これまでの経歴からしても間違いないないだろう。
前田達也は陽の父親だ。

恐らく、今目の前で起きていることは偶然の産物なのだろう。
前田達也は陽が今、何処でどのような生活をしているのかすら知らないはずだ。
いや、知ろうとすらしないだろう。

しかし、目の前にいるのは陽と血の繋がりのある男なのだ。
陽が15年と言う長い月日を、狭く彩のないアパートの一室で過ごさねばならなかった原因が、この男なのだ。

陽はこれからずっと己が守っていく。揺るぎない決意はあるが、目の前の男に天誅をと望んでしまうのは狭量だろうか。

そして、その天誅を自ら与えようと考えてしまうのは野蛮だろうか。

ただ、目の前の男の存在がなければ朔也は陽と出逢えなかったことも事実なのだ。

これからの陽が幸せであればいいと思う。しかし、不幸を不幸と感じることすらできなかった陽のこれまでの時間を作った張本人であるこの男を許せるかと言えば全く別の問題なのだ。

許せるわけなどない。

だが

先程の吾妻との短い会話で、明日にも前田達也の詳細が報告されるだろう。
処遇を決めるのはそれからでも遅くはない。

人知れず前田達也の生殺与奪の権利を朔也は持ったのだ。それがヤクザの汚さだと言われようと今の朔也は構わない。

今この瞬間、前田達也の過去を調べて、陽が愛された証を見出だしたいのか、朔也が陽を保護したことは間違いではなかった証を探したいのか、朔也自身にも解らなくなっていた。
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