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陽の試練 蒴也の忍耐
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朔也の隣でブイヤベースを頬張る陽は、昼食の時が嘘のように食欲が旺盛だ。
もちろん、同世代の少年たちと比べれば半分以下の量しか食べられないだろう。
それでも自ら食べ進める陽に大人は皆、目を細める。
朔也の存在が陽の精神安定剤になっている。誰の目から見てもそれが明らかだ。
しかし四六時中、陽の隣に朔也が居てやることは不可能なのだ。
特に明日はかなりタイトなスケジュールを組んでいる。
陽が納得するまで言い含めるつもりだが、どこまで解ってもらえるのか。
そんな朔也の胸の内を知ってか知らずか咲恵が言葉を尽くしてくれる。
『何度でも伝えましょう』
そして、それが嘘にならないように、と。
そうだ。ここに帰ってくると言ったのだから、何があっても帰って来ればいい。
それなら、陽もいつかは安心できるはずなのだから。
夕食を済ませ、咲恵を見送り、鹿島と楠瀬も下がらせれば後は陽と朔也2人だけの時間だ。
ソファで陽を膝に座らせ、何度も言い聞かせる。
仕事に行っても、必ずここに帰ってくると。
風呂に浸かりながら、繰り返し言い含める。
陽を愛しているのだと。
だから
『陽も、この家で待っていてくれるか?』
返事がないことなど覚悟の上で陽に伝えれば、小さな声で拙い言葉で
『待ってる』
たった一言答えてくれたのだ。
極々日常的で珍しくもない会話が、2人の間では特別な遣り取りだ。
朔也が尋ね、陽が応えた。
『そっか、陽。待っていてくれるか』
たった一言が朔也を高揚させる。誰かにもたらされた一言でこれ程までに歓喜したのは初めてではないだろうか。
咲恵が言っていた。
『陽くんには試練だったと思うわ』
朔也の留守が不安だった。帰宅に安堵した。
そして「待ってる」と言ってくれた。
朔也不在と言う試練を乗り越えて欲しいような欲しくないような、なんとも複雑な想いで陽を抱き締める。
結局今日も風呂で全身をきれいに洗って皮剥きをして髪の毛を乾かし歯磨きを手伝い朔也のベッドで2人で眠る。
控え目な寝息をたてる陽は朔也の腕の中がよほど安心できるのだろう。穏やかな表情で眠りについた。
『俺は絶対ここに帰ってくるから』
不安に思うことなど何1つない。
独り言つ朔也は陽の額にそっと口づけた後、
『でもな』
明日のスケジュールを考えると少々悩ましくもあった。今日と違い確実に夜遅くの帰宅になってしまう。夕食も陽と共にはできないだろう。
できることは1つだけ。明日の朝も何度も何度も言葉で伝えよう。しっかり抱き締めよう。
熟と考えながら持ち帰った大量の報告書に目を通した。
もちろん、同世代の少年たちと比べれば半分以下の量しか食べられないだろう。
それでも自ら食べ進める陽に大人は皆、目を細める。
朔也の存在が陽の精神安定剤になっている。誰の目から見てもそれが明らかだ。
しかし四六時中、陽の隣に朔也が居てやることは不可能なのだ。
特に明日はかなりタイトなスケジュールを組んでいる。
陽が納得するまで言い含めるつもりだが、どこまで解ってもらえるのか。
そんな朔也の胸の内を知ってか知らずか咲恵が言葉を尽くしてくれる。
『何度でも伝えましょう』
そして、それが嘘にならないように、と。
そうだ。ここに帰ってくると言ったのだから、何があっても帰って来ればいい。
それなら、陽もいつかは安心できるはずなのだから。
夕食を済ませ、咲恵を見送り、鹿島と楠瀬も下がらせれば後は陽と朔也2人だけの時間だ。
ソファで陽を膝に座らせ、何度も言い聞かせる。
仕事に行っても、必ずここに帰ってくると。
風呂に浸かりながら、繰り返し言い含める。
陽を愛しているのだと。
だから
『陽も、この家で待っていてくれるか?』
返事がないことなど覚悟の上で陽に伝えれば、小さな声で拙い言葉で
『待ってる』
たった一言答えてくれたのだ。
極々日常的で珍しくもない会話が、2人の間では特別な遣り取りだ。
朔也が尋ね、陽が応えた。
『そっか、陽。待っていてくれるか』
たった一言が朔也を高揚させる。誰かにもたらされた一言でこれ程までに歓喜したのは初めてではないだろうか。
咲恵が言っていた。
『陽くんには試練だったと思うわ』
朔也の留守が不安だった。帰宅に安堵した。
そして「待ってる」と言ってくれた。
朔也不在と言う試練を乗り越えて欲しいような欲しくないような、なんとも複雑な想いで陽を抱き締める。
結局今日も風呂で全身をきれいに洗って皮剥きをして髪の毛を乾かし歯磨きを手伝い朔也のベッドで2人で眠る。
控え目な寝息をたてる陽は朔也の腕の中がよほど安心できるのだろう。穏やかな表情で眠りについた。
『俺は絶対ここに帰ってくるから』
不安に思うことなど何1つない。
独り言つ朔也は陽の額にそっと口づけた後、
『でもな』
明日のスケジュールを考えると少々悩ましくもあった。今日と違い確実に夜遅くの帰宅になってしまう。夕食も陽と共にはできないだろう。
できることは1つだけ。明日の朝も何度も何度も言葉で伝えよう。しっかり抱き締めよう。
熟と考えながら持ち帰った大量の報告書に目を通した。
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