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陽の試練 蒴也の忍耐
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時刻は朝7時。サイレントモードのスマートフォンが短く2度振動した。
吾妻からのメッセージを受信したのだ。
「料理のできる組員と雑用をこなす組員を連れて8時に行きます」
シンプルなメッセージに
「了解」
とだけ、これまたシンプルなレスポンスをつける。
そして、鋭い吾妻にはバレているな、と蒴也は思う。
ビジネスシーンにおいて通話が不可能である状況で、しかも一刻も早く情報を共有したい瞬間に吾妻が選ぶ手段だった。
吾妻は今、蒴也が電話に出られない状態だと知っている。蒴也が1人で寝ていれば、容赦なく着信音を鳴らし続け叩き起こされたことだろう。
陽が隣に寝ていることを想定して、しかも蒴也がスマートフォンをサイレントモードにしているであろうことも推測した上で通話ではなく、メッセージアプリを利用したのだ。
陽の眠りを妨げないために。どこまでも聡い吾妻には隠せるはずもあるまい。
それでも、自身の名誉のために少々言い訳染みた追而書をしたくなる。
「手は出してない」
真実ではある。今のところ、と言う但書きはついてしまうが。
「くれぐれも犯罪に手を染めるようなことは慎んでいただくよう」
きっと吾妻はこの瞬間、1人ほくそ笑んでるに違いない。本気半分、からかい半分の吾妻に嵌められたとは思うが、誤解されたくはなかった。
もっとも蒴也のことを誰よりも理解している吾妻が、そのような誤解をするわけもないのだが、それでもまだ潔白なままであることを証明したいのは後ろめたさ故だろう。
『それも了解』
2度目の短いレスポンスをつければ、その後スマートフォンは振動することもなく静かになる。
8時に吾妻が来るのなら、陽をそろそろ起こした方がいいだろう。それから少し遅れて咲恵もくるはずだ。
ピクリとも動かず寝息を立てている陽を起こすのは忍びないが、生活リズムを整え生活習慣を身に付けることを大切にして欲しいと咲恵からも言われている。
『起こすか』
肉の薄い頬をちょん、つついてみれば長い睫が微かに動く。
『陽おはよ』
蒴也の声に反応して目を覚ました陽は今朝もやはり、
『おしっこ』
早朝から修行が始まる。蒴也が涼しい顔を心がけ、ベッド脇に膝をつけば陽が予想外の行動に出る。赤子が抱っこを強請る時のように蒴也の首に腕を回したのだ。
『…!!!』
一瞬より長い時間、蒴也の動作も思考も止まった。心臓すら止まったように感じた。
陽からすれば、無意識に、しかも純粋に抱っこを強請ったのだろう。それすらも15年間してこなかったはずなのだから、目覚ましい成長と言えるはずだ。
陽の甘えたな仕草は可愛い。甘えることを覚えつつあることも嬉しい。そして甘えられる対象として蒴也を選んでくれたことも幸せだと思う。
そしてそれなりに忍耐強いはずの朔也でさえ耐えることが辛くなる。主に下半身が。蒴也からすれば朝の修行の前の苦行以外の何物でもない。
『おしっこ言えてエラいな』
陽を抱き上げトイレに向かった蒴也だったが、些か腰が引けていたのことに陽は気付かずにいてくれた。
吾妻からのメッセージを受信したのだ。
「料理のできる組員と雑用をこなす組員を連れて8時に行きます」
シンプルなメッセージに
「了解」
とだけ、これまたシンプルなレスポンスをつける。
そして、鋭い吾妻にはバレているな、と蒴也は思う。
ビジネスシーンにおいて通話が不可能である状況で、しかも一刻も早く情報を共有したい瞬間に吾妻が選ぶ手段だった。
吾妻は今、蒴也が電話に出られない状態だと知っている。蒴也が1人で寝ていれば、容赦なく着信音を鳴らし続け叩き起こされたことだろう。
陽が隣に寝ていることを想定して、しかも蒴也がスマートフォンをサイレントモードにしているであろうことも推測した上で通話ではなく、メッセージアプリを利用したのだ。
陽の眠りを妨げないために。どこまでも聡い吾妻には隠せるはずもあるまい。
それでも、自身の名誉のために少々言い訳染みた追而書をしたくなる。
「手は出してない」
真実ではある。今のところ、と言う但書きはついてしまうが。
「くれぐれも犯罪に手を染めるようなことは慎んでいただくよう」
きっと吾妻はこの瞬間、1人ほくそ笑んでるに違いない。本気半分、からかい半分の吾妻に嵌められたとは思うが、誤解されたくはなかった。
もっとも蒴也のことを誰よりも理解している吾妻が、そのような誤解をするわけもないのだが、それでもまだ潔白なままであることを証明したいのは後ろめたさ故だろう。
『それも了解』
2度目の短いレスポンスをつければ、その後スマートフォンは振動することもなく静かになる。
8時に吾妻が来るのなら、陽をそろそろ起こした方がいいだろう。それから少し遅れて咲恵もくるはずだ。
ピクリとも動かず寝息を立てている陽を起こすのは忍びないが、生活リズムを整え生活習慣を身に付けることを大切にして欲しいと咲恵からも言われている。
『起こすか』
肉の薄い頬をちょん、つついてみれば長い睫が微かに動く。
『陽おはよ』
蒴也の声に反応して目を覚ました陽は今朝もやはり、
『おしっこ』
早朝から修行が始まる。蒴也が涼しい顔を心がけ、ベッド脇に膝をつけば陽が予想外の行動に出る。赤子が抱っこを強請る時のように蒴也の首に腕を回したのだ。
『…!!!』
一瞬より長い時間、蒴也の動作も思考も止まった。心臓すら止まったように感じた。
陽からすれば、無意識に、しかも純粋に抱っこを強請ったのだろう。それすらも15年間してこなかったはずなのだから、目覚ましい成長と言えるはずだ。
陽の甘えたな仕草は可愛い。甘えることを覚えつつあることも嬉しい。そして甘えられる対象として蒴也を選んでくれたことも幸せだと思う。
そしてそれなりに忍耐強いはずの朔也でさえ耐えることが辛くなる。主に下半身が。蒴也からすれば朝の修行の前の苦行以外の何物でもない。
『おしっこ言えてエラいな』
陽を抱き上げトイレに向かった蒴也だったが、些か腰が引けていたのことに陽は気付かずにいてくれた。
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