太陽と月

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始まった日常

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なんとなく陽のトイレには蒴也が付き合う、と言うのが暗黙のルールとして定着し始めている。

今も陽は蒴也と手を繋ぎトイレのドアを開けた。

蒴也自身は邪な考えもあり、それに付き合うのは苦ではない。ある意味低め安定の聖人君子度を計られる辛い行為ではあるのだが。
しかし明日からは蒴也が四六時中、陽の側にいられるわけではない。
となれば、誰かが陽のトイレに付き合うことになるのか?

『そんなの許さない』

蒴也の狭い狭い心はあり得ないほどにイケナイ想像を膨らませる。

もし蒴也不在中に陽が『おしっこ』と言ったら?
しかも料理番や雑用の組員の手を取って、それを言ったら?
陽は組員をトイレまで伴うのか?そこで下肢を惜しげもなく晒すのか?
そして組員の目の前で…
吾妻の選り抜いた組員が陽に対しては暴挙に出ることは考え難い。
それは蒴也とて理解している。しているのだが…

ダメだ。そんなの絶対にダメだ。
それならば、先手を打ってトイレ介助は咲恵に頼んでおくか?
いや、咲恵とて可愛い陽のそんな姿を見てしまえば、少しぐらい不埒なことを考えても仕方ない。

陽はそれほどに可愛いのだから。

自身の思考が著しく変てこな方向に傾いていることに全く気付かない蒴也は、腕を引かれたことで我に返る。

腕を引かれた先を見れば、陽がモジモジと膝を擦り合わせながら、上目遣いで蒴也を見ていた。

『おしっこ』

そうだ。とりあえず「おしっこ」だ。

『あぁ、陽ごめん』

まるで蒴也が現実に引き戻されたことを確認したかのように陽は自らズボンとボクサーブリーフを下ろすと、蒴也と手を繋ぎ直す。

まただ。陽は今度もまた、蒴也の目の前で「淫靡な」ショーを始めようとしている。

もっとも、そこに「淫靡な」感情を抱いているのは蒴也だけなのだ。陽は恐ろしく無自覚なのだから。

膀胱は許容量間際と言ったところだったのだろう。

便座に腰を下ろした陽はすぐに薄い琥珀色の液体を勢いよく排泄し始めた。

こんな光景、他の誰にも見せるわけにはいかない。
…いや蒴也が見せたくないだけか。

そこで漸く蒴也は昨日のことに思い至る。
?昨日は1日炎星会のことで組事務所に詰めていた。
その間、陽は佐伯と咲恵と3人で過ごしたのだ。

???昨日はどうしていたんだ?
咲恵か
それとも

佐伯が、あの佐伯が陽のトイレに付き合っていたのか?

下着とズボンを直す陽に

『陽、昨日はトイレどうしてた?』

陽が答えるはずもなく、蒴也を見上げている。

すぐに、すぐに咲恵に確認しなければならない。陽が昨日トイレをどうしていたのか。
すぐに確認だ。

『咲恵さん!』

何事かと驚いたのだろう。リビングのドアを慌てて開けた咲恵が

『どうしたの?』

首を傾げて、こちらを見ている。

『昨日、陽はトイレどうしてた?』


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