太陽と月

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始まった日常

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陽はお絵描き初体験でエネルギー消費が多かったのか、それとも体調がしっかり戻ったからなのか昼食の食べっぷりも、なかなかによかった。

とは言っても、小さなお皿に少なめのエビピラフと小さなカップに少なめの野菜スープだったのだが、しっかり完食してくれたのだ。

昼食後ほどなくしてソファで船を漕ぎ始めた陽をベッドに寝かせ、大人2人はホッと一息コーヒータイムとなったのだ。

『咲枝さん、話が遅くなって申し訳ありません』

既に陽のサポートをお願いしているのにも関わらず、その契約内容について何も話をしていなかったのだ。
もちろん陽のことを頼むのだから、破格の金額を提示したのだが、それは固辞されてしまう。

小児医療センターで看護師長として勤務していた頃よりも安い金額で十分だと言われてしまい、蒴也としてはギリギリの落とし所を見つけるのに四苦八苦していた。
あくまで陽のサポートをお願いしたのであって、ハウスキーパーとしてではない。

陽の食事はメニューのみを咲恵に提案してもらい、食材の調達と調理自体には調理師免許を持っている組員をあてることにした。

掃除洗濯は元々信頼のおける何人かの組員に週に二度ほどの頻度で任せていたため、それを毎日とすることで少しでも咲恵の負担を減らす方法を考えた。

それに恐縮する咲恵に対しては

『子育てなのだから、皆の力を少しずつ借りたい』

の押しの一手で攻め続けた。実際に明星会の現会長である幸田も常々それを信条としているのだ。

子供は社会が育てるもの。極道はその最後の受皿なのだと。

学校や職場など社会に馴染めずドロップアウトしていく人間は多い。その受皿の1つとして極道が存在するなど些か綺麗事のような気もするが、幸田はそれを明星会の旗印としているようなところがあった。

実際どこからともなく拾われてきた輩が明星会の幹部まで登り詰めたことも少なくはないし、明星会の構成員とはならずとも、何等かの技術や知識を身に付けて独立していく者も多かった。
独立した者からは報恩の意なのか自然発生的に明星会に対し上納金が納められるためwin  winの関係を築くことにも繋がっていた。

『陽にも、たくさんの仲間や味方がいることを実感して欲しい』

だから様々な人の手を借りるのだ。そこまで言えば咲恵も大きく頷いた。

『そうね。助けてくれる人が大勢いるって大切よね』

咲恵の負担を少しでも軽減するための提案ではあったが、それが陽のためになるのなら咲恵も了承せざるを得ないだろう。

『それと咲恵さん』

未だ炎星会との一件が終息したとは言いきれない、それに明星会が指定暴力団であることに変わりはない。今は落ち着いているが、有事の際には帰宅せず、身の安全のためここで過ごして欲しい。
陽と2人ここで軟禁生活の可能性がないわけでない、それでも良いかと蒴也が問えば

『ここがヤクザのお家だってことは、わかってるわよ』

咲恵は大きな声で笑ってくれる。郷に入っては郷に従えって言うものね。何かあれば、ここでお世話になるわ。と言いきってしまうあたり、やはり明星会の幹部としてスカウトしたいほど咲恵の肝は据わっていた。
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