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始まった日常
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慣れた手付きで片付けを済ませた咲恵は、持参した大きな荷物からA3ほどの大きさのスケッチブックとビビッドな色合いばかりの色鉛筆を取り出した。
『今日は陽くんとお絵描きがしたかったの』
咲恵が手に取ったのは赤色の色鉛筆。お絵描きと言うには程遠い不規則な螺旋や丸、三角など真似やすいものを描いている。
『陽くんもやってみて』
色鉛筆を陽の前に差し出せば、陽が選んだのは青色のそれだった。選んだのか、たまたま手に取ったのかはわからないが、持たされたわけではなく自分から手に取ってくれた。
『画用紙に書いてみて』
先ほどの咲恵を真似ているのだろうか、筆圧の定まらない青色が画用紙の上を踊っている。
『陽くんは、青色が好き?他の色も使ってみてね』
咲恵自身も鉛筆を持ち変え、絵とも呼べない絵を描いていく。それを何度か繰り返せば、陽は次々と鉛筆を持ち変え、色の違いを楽しんでいるようにも見える。
相変わらず表情は変わらないが、随分と集中しているようだ。
そこからは、咲恵も声をかけることなく、陽を見守っていた。
やがてスケッチブックいっぱいに色の乗った斬新な作品が出来上がった頃、陽のお腹が可愛らしい音を立てた。
フフッと声を立てて笑った咲恵が
『おやつを食べましょうね』
頑張るとお腹が空くのよ。おやつを食べるとまた頑張れるの。だから、手を洗ってらっしゃい。
その言葉が陽に届いているかは別として、三度の食事と二度のおやつは食べさせたいのだろう。
冷蔵庫から3種類のゼリーを出して待ち構えていた咲恵は、蒴也に伴われ手を洗い終えた陽に選ばせようとしている。
今はまだ選べなくてもいい。咲恵も蒴也もそんな気持ちで陽を見ていたのだがーーーーー
目の前に並んだ3つのゼリーを見て陽が迷っているように見える。
長谷美由紀との生活の中でゼリー1つであっても選択できるようなことがあったとは考え難い。
だとしたら、陽は迷えているのだろうか。自分で選ぼうとしているのだろうか。
やがて陽が3つのうちの1つに自ら手を伸ばしてくれた。鮮やかな紫色、葡萄が丸ごと入ったそれを恐る恐ると言った様子で引き寄せたのだ。
『陽は葡萄のゼリーを選んだんだな』
ゼリーの蓋を甲斐甲斐しく開けた蒴也は、少し考えてスプーンは陽に持たせてみる。
『自分で食べられるか?』
本当は蒴也の手から食べて欲しい。欲しいのだが、そこまでをしていいものなのか正解がわからなかったのだ。
スプーンの使い方すらも覚束ない陽だが、なんとか自分で口まで運んでいる。スプーンに乗った葡萄を頬張れば、ゼリーと違う食感に驚いたのだろう。暫し動きが止まったが、ゆっくり咀嚼してはスプーンを口に運んでいる。
『すごーい、陽くん全部食べられた!』
お昼ご飯も晩ご飯も、たっくさん食べてね。
食べた本人よりも咲恵の方が嬉しそうに笑う。
そして
ゼリーを完食した陽が目を向けたのはスケッチブックと色鉛筆だった。
『陽くん、お絵描きしてみて』
陽は今「お絵描き」と言う言葉に反応したように見えた。
偶然か親バカ目線か、きっとそんなことはないと信じる蒴也は、今後咲恵も呆れるほどの親バカっぷりを発揮していくことになる。
ただし幸か不幸か純粋な親バカではないことも晒されることにはなるのだが。
『今日は陽くんとお絵描きがしたかったの』
咲恵が手に取ったのは赤色の色鉛筆。お絵描きと言うには程遠い不規則な螺旋や丸、三角など真似やすいものを描いている。
『陽くんもやってみて』
色鉛筆を陽の前に差し出せば、陽が選んだのは青色のそれだった。選んだのか、たまたま手に取ったのかはわからないが、持たされたわけではなく自分から手に取ってくれた。
『画用紙に書いてみて』
先ほどの咲恵を真似ているのだろうか、筆圧の定まらない青色が画用紙の上を踊っている。
『陽くんは、青色が好き?他の色も使ってみてね』
咲恵自身も鉛筆を持ち変え、絵とも呼べない絵を描いていく。それを何度か繰り返せば、陽は次々と鉛筆を持ち変え、色の違いを楽しんでいるようにも見える。
相変わらず表情は変わらないが、随分と集中しているようだ。
そこからは、咲恵も声をかけることなく、陽を見守っていた。
やがてスケッチブックいっぱいに色の乗った斬新な作品が出来上がった頃、陽のお腹が可愛らしい音を立てた。
フフッと声を立てて笑った咲恵が
『おやつを食べましょうね』
頑張るとお腹が空くのよ。おやつを食べるとまた頑張れるの。だから、手を洗ってらっしゃい。
その言葉が陽に届いているかは別として、三度の食事と二度のおやつは食べさせたいのだろう。
冷蔵庫から3種類のゼリーを出して待ち構えていた咲恵は、蒴也に伴われ手を洗い終えた陽に選ばせようとしている。
今はまだ選べなくてもいい。咲恵も蒴也もそんな気持ちで陽を見ていたのだがーーーーー
目の前に並んだ3つのゼリーを見て陽が迷っているように見える。
長谷美由紀との生活の中でゼリー1つであっても選択できるようなことがあったとは考え難い。
だとしたら、陽は迷えているのだろうか。自分で選ぼうとしているのだろうか。
やがて陽が3つのうちの1つに自ら手を伸ばしてくれた。鮮やかな紫色、葡萄が丸ごと入ったそれを恐る恐ると言った様子で引き寄せたのだ。
『陽は葡萄のゼリーを選んだんだな』
ゼリーの蓋を甲斐甲斐しく開けた蒴也は、少し考えてスプーンは陽に持たせてみる。
『自分で食べられるか?』
本当は蒴也の手から食べて欲しい。欲しいのだが、そこまでをしていいものなのか正解がわからなかったのだ。
スプーンの使い方すらも覚束ない陽だが、なんとか自分で口まで運んでいる。スプーンに乗った葡萄を頬張れば、ゼリーと違う食感に驚いたのだろう。暫し動きが止まったが、ゆっくり咀嚼してはスプーンを口に運んでいる。
『すごーい、陽くん全部食べられた!』
お昼ご飯も晩ご飯も、たっくさん食べてね。
食べた本人よりも咲恵の方が嬉しそうに笑う。
そして
ゼリーを完食した陽が目を向けたのはスケッチブックと色鉛筆だった。
『陽くん、お絵描きしてみて』
陽は今「お絵描き」と言う言葉に反応したように見えた。
偶然か親バカ目線か、きっとそんなことはないと信じる蒴也は、今後咲恵も呆れるほどの親バカっぷりを発揮していくことになる。
ただし幸か不幸か純粋な親バカではないことも晒されることにはなるのだが。
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