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発火
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『殺せよ』
後ろ手に拘束された篠崎は手首を撃ち抜かれた瞬間様々なことを諦めたのだろう。
手首からの出血量もそこそこの量で、みるみる内に血の気が引いていく。
『いえ。そんな野蛮なことは致しません』
平然と言い放つ吾妻は、数分前に佐伯に連絡をしていた。篠崎の傷の手当ての為だ。配慮ではない。
ただ篠崎が生きた状態で創世会本部に引き渡す為だ。
これ以上の制裁は明星会の任ではない。出過ぎた真似をする気はないのだ。
にも関わらず、佐伯は組事務所には行かないと宣う。陽の側を離れたくないと。今日顔を合わせたばかりの陽と咲恵を2人だけにすることに躊躇いがあったのだろうが、単に陽を愛でていたいだけのような気もする。
『他のヤツを行かせるから』
闇医者にも、それなりの横の繋がりがあるらしい。
何はともあれ、篠崎の失血死さえ阻止できればいいのだが。
30分ほどで組事務所に現れた佐伯の代打は老齢の男だったが、篠崎の傷を見ても顔色一つ変えず、消毒もせず麻酔もないまま応急処置をして15分ほどで帰って行った。
痛みのあまり痙攣する篠崎と他の組員を炎星会のワンボックスカーに押し込め、本部に届ける段取りをつけたところで、吾妻は漸く蒴也の元へと向かった。
『遅くなりました』
派手な音がしたが大丈夫かと聞く蒴也は、部下達の心配をしているわけではない。事の顛末など予想と違わないのだから。
近隣住民からの苦情や警察や消防への通報を危惧しているに過ぎないのだ。
暫くしてもサイレンの音がしないことを確認し、蒴也が今回の一部始終を明星会会長の幸田と創世会本部の土門に報告し全てが終わる頃には、随分と夜も更けていた。
『吾妻、帰るぞ』
今まで蒴也から一度も聞いたことがなかった言葉だった。
確かに蒴也は多忙だ。時間の使い方が下手なわけでもなければ、要領が悪いわけでもないのだが、裏の仕事も表の仕事も手を抜くことをしない。
吾妻や他の幹部が追い立てなければ、いつまでもパソコンと向かい合うことを止めないのが今までの蒴也だったのだから。
それでも腑抜けいるわけではないのが蒴也の前に積まれたデジタルデータ化を待つのみの書類の山から見て取れる。この短時間でこなすのは骨が折れるはずなのだが。
炎星会の襲撃の前面に蒴也を引っ張り出さなかったことは色んな意味で正解だったようだ。
『車を回しますので、少々お待ちください』
麻生を呼び出そうとスマートフォンをタップしている間にも蒴也は、さっさと帰り支度を始めている。
急がずとも陽は逃げたりしないのに。
後部座席に蒴也を乗せ自身も助手席に乗り込んだ吾妻はスマートフォンの通話履歴から再び佐伯を呼び出す。
陽の様子を確認するためだ。
咲恵の作った食事を摂り、咲恵に入浴の介助をしてもらい
『もうゲストルームのベッドで眠っているよ』
と聞けば、自分たちがいなくてもほぼ1日陽が安穏な時間を過ごせたことに安堵しつつ、ほんの少しの寂しさも感じたのだった。
後ろ手に拘束された篠崎は手首を撃ち抜かれた瞬間様々なことを諦めたのだろう。
手首からの出血量もそこそこの量で、みるみる内に血の気が引いていく。
『いえ。そんな野蛮なことは致しません』
平然と言い放つ吾妻は、数分前に佐伯に連絡をしていた。篠崎の傷の手当ての為だ。配慮ではない。
ただ篠崎が生きた状態で創世会本部に引き渡す為だ。
これ以上の制裁は明星会の任ではない。出過ぎた真似をする気はないのだ。
にも関わらず、佐伯は組事務所には行かないと宣う。陽の側を離れたくないと。今日顔を合わせたばかりの陽と咲恵を2人だけにすることに躊躇いがあったのだろうが、単に陽を愛でていたいだけのような気もする。
『他のヤツを行かせるから』
闇医者にも、それなりの横の繋がりがあるらしい。
何はともあれ、篠崎の失血死さえ阻止できればいいのだが。
30分ほどで組事務所に現れた佐伯の代打は老齢の男だったが、篠崎の傷を見ても顔色一つ変えず、消毒もせず麻酔もないまま応急処置をして15分ほどで帰って行った。
痛みのあまり痙攣する篠崎と他の組員を炎星会のワンボックスカーに押し込め、本部に届ける段取りをつけたところで、吾妻は漸く蒴也の元へと向かった。
『遅くなりました』
派手な音がしたが大丈夫かと聞く蒴也は、部下達の心配をしているわけではない。事の顛末など予想と違わないのだから。
近隣住民からの苦情や警察や消防への通報を危惧しているに過ぎないのだ。
暫くしてもサイレンの音がしないことを確認し、蒴也が今回の一部始終を明星会会長の幸田と創世会本部の土門に報告し全てが終わる頃には、随分と夜も更けていた。
『吾妻、帰るぞ』
今まで蒴也から一度も聞いたことがなかった言葉だった。
確かに蒴也は多忙だ。時間の使い方が下手なわけでもなければ、要領が悪いわけでもないのだが、裏の仕事も表の仕事も手を抜くことをしない。
吾妻や他の幹部が追い立てなければ、いつまでもパソコンと向かい合うことを止めないのが今までの蒴也だったのだから。
それでも腑抜けいるわけではないのが蒴也の前に積まれたデジタルデータ化を待つのみの書類の山から見て取れる。この短時間でこなすのは骨が折れるはずなのだが。
炎星会の襲撃の前面に蒴也を引っ張り出さなかったことは色んな意味で正解だったようだ。
『車を回しますので、少々お待ちください』
麻生を呼び出そうとスマートフォンをタップしている間にも蒴也は、さっさと帰り支度を始めている。
急がずとも陽は逃げたりしないのに。
後部座席に蒴也を乗せ自身も助手席に乗り込んだ吾妻はスマートフォンの通話履歴から再び佐伯を呼び出す。
陽の様子を確認するためだ。
咲恵の作った食事を摂り、咲恵に入浴の介助をしてもらい
『もうゲストルームのベッドで眠っているよ』
と聞けば、自分たちがいなくてもほぼ1日陽が安穏な時間を過ごせたことに安堵しつつ、ほんの少しの寂しさも感じたのだった。
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