30 / 197
内乱の火種
30
しおりを挟む
今回の炎星会とチャイニーズマフィアの取引に関する対応は創世会本部の意向により、明星会と辰星会のごく一部の人間のみで為されていた。
創世会本部でも八神総裁と土門幹事長、その他数人が事態を把握しているのみだったが、ここ1年程の炎星会の動きに他の組も何等かの違和感を持っていたのだ。
創世会本部の会議室に次々と集まる幹部達は、やはり炎星会の処遇に関する召集なのではと目測を立てていた。
全員が座した創世会本部の会議室に指定された時刻をとうに過ぎた頃、炎星会会長の内藤と若頭補佐の結城が姿を現した。
そこに自然と視線が集まれば、内藤は太々しい態度で口先だけの謝罪の言葉を吐く。
『何かと多忙でしてね。時間を作るのに苦労しました』
そんな内藤の後ろでは表情を変えずとも、どこか焦燥感の滲む結城が控えている。
暫し沈黙の流れる会議室で、重い空気を断ち切るように口を開いたのは幹事長の土門であった。
『そうだな。皆忙しいだろう』
であれば早々本題に、と手元のタブレットをタップする。
同席者全員の注目が集まる中、土門はメディアの音量を最大まで上げたのだろう。聞こえてくるのはノイズ混じりの男の声だった。
蒴也が盗聴した篠崎の声。取引の具体的な日時、場所、複数の違法薬物の名前と取引相手の名前までが克明に聞き取れるものだ。
『なあ内藤、俺にはこの声が篠崎のものに聞こえるんだが』
お前には、どう聞こえる?と問われる内藤の顔色は悪い。
盗聴されているなど全く気付いていなかったのだろう。しかし所詮はヤクザなのだ。違法だのなんだのと喚くつもりはないらしいが、内藤は何より我が身が可愛い。
『そ そんな取引、俺は指示していない』
自己保身から篠崎が単独で行動していることであり、組として把握しているわけではない、と言い募る。
内藤の後ろでは結城がスマートフォンを取り出しているが、土門はそれを視線だけで制する。
『それでもなぁ内藤 お前の監督不行届は明白だ』
狼狽える内藤は、本当に一組織を率いる人間なのかと思うほどに見苦しい。
『さぁ内藤、お前ならこの落し前どうつける?』
それを決めるのはお前ではないが、と続く土門の声は地を這うほどに低い。
土門に気圧された内藤だが、それでも往生際が悪い。
『創世会本部へは、迷惑料を払う。篠崎は破門だ』
あくまでも篠崎1人で為したことであり、自分も組も被害者だと宣う。
たった今の土門の言葉を無視した言い種だ。
室内が呆れと言う名の乾いた空気に包まれた。
『ほぉ、当事者の篠崎が破門なら』
そこで言葉を切った土門は、先程から静観を決め込んでいた八神総裁に向き直る。
『総裁のお考えは』
暫しの沈黙の後、八神は表情を変えぬまま内藤を見ることもなく言い放った。
創世会本部でも八神総裁と土門幹事長、その他数人が事態を把握しているのみだったが、ここ1年程の炎星会の動きに他の組も何等かの違和感を持っていたのだ。
創世会本部の会議室に次々と集まる幹部達は、やはり炎星会の処遇に関する召集なのではと目測を立てていた。
全員が座した創世会本部の会議室に指定された時刻をとうに過ぎた頃、炎星会会長の内藤と若頭補佐の結城が姿を現した。
そこに自然と視線が集まれば、内藤は太々しい態度で口先だけの謝罪の言葉を吐く。
『何かと多忙でしてね。時間を作るのに苦労しました』
そんな内藤の後ろでは表情を変えずとも、どこか焦燥感の滲む結城が控えている。
暫し沈黙の流れる会議室で、重い空気を断ち切るように口を開いたのは幹事長の土門であった。
『そうだな。皆忙しいだろう』
であれば早々本題に、と手元のタブレットをタップする。
同席者全員の注目が集まる中、土門はメディアの音量を最大まで上げたのだろう。聞こえてくるのはノイズ混じりの男の声だった。
蒴也が盗聴した篠崎の声。取引の具体的な日時、場所、複数の違法薬物の名前と取引相手の名前までが克明に聞き取れるものだ。
『なあ内藤、俺にはこの声が篠崎のものに聞こえるんだが』
お前には、どう聞こえる?と問われる内藤の顔色は悪い。
盗聴されているなど全く気付いていなかったのだろう。しかし所詮はヤクザなのだ。違法だのなんだのと喚くつもりはないらしいが、内藤は何より我が身が可愛い。
『そ そんな取引、俺は指示していない』
自己保身から篠崎が単独で行動していることであり、組として把握しているわけではない、と言い募る。
内藤の後ろでは結城がスマートフォンを取り出しているが、土門はそれを視線だけで制する。
『それでもなぁ内藤 お前の監督不行届は明白だ』
狼狽える内藤は、本当に一組織を率いる人間なのかと思うほどに見苦しい。
『さぁ内藤、お前ならこの落し前どうつける?』
それを決めるのはお前ではないが、と続く土門の声は地を這うほどに低い。
土門に気圧された内藤だが、それでも往生際が悪い。
『創世会本部へは、迷惑料を払う。篠崎は破門だ』
あくまでも篠崎1人で為したことであり、自分も組も被害者だと宣う。
たった今の土門の言葉を無視した言い種だ。
室内が呆れと言う名の乾いた空気に包まれた。
『ほぉ、当事者の篠崎が破門なら』
そこで言葉を切った土門は、先程から静観を決め込んでいた八神総裁に向き直る。
『総裁のお考えは』
暫しの沈黙の後、八神は表情を変えぬまま内藤を見ることもなく言い放った。
10
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる