太陽と月

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内乱の火種

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組事務に戻った吾妻はシャワーを浴び着替えてから、創世会本部へと向かう。
三十路を迎え自身の「加齢臭」とやらに気を揉むようになったことに苦笑が漏れる。
周囲からは『特に臭いませんけどね』と呆れたような返答しか得たことはないのだが。

蒴也のマンションから組事務に戻る道行きで、創世会本部へと連絡を入れた際、炎星会の取引の経過報告と今後の対応を協議するため創世会幹部と一次団体の幹部に対し緊急召集をかけることとなったのだ。

もっとも創世会自体は50名程の小規模な組織であり、幹部もその殆んどを一次団体の要職が兼務しているため、召集されたのは僅か十数名である。

本部からの緊急召集は「要請」の形を取ってはいるが事実上の「命令」であり指定された時間を待たずとも一堂に会することとなるだろう。

理由が明かされずに緊急召集がかけられたことは過去にも何度かあったが、いずれも掟破りと謀反が色濃く疑われる場合か、それが確定的となった場合であり、今回の召集に対する意図も全員が正しく理解しているはずだ。

『なぁ吾妻、炎星会の連中どのツラ下げて来るんだろうな』

そう言ってニヒルな笑みを浮かべるのは、創世会最高幹部の土門  崇である。
既に還暦を過ぎ何年か経っているが、権力、体力共に衰えることはなく幹事長として辣腕を振るっている。
温厚で義理人情にも厚い土門は一方で仁義に反するようなことには自ら制裁を下すことも厭わない非情さも持ち合わせている。その制裁たるや、どんな外道も目を覆うような凄惨なものだ。見せしめの意味もあるのだろう。
土門はそれを回避するためにも一次団体の1つだけが力をつけすぎぬよう均衡を保つことに尽力している。
今回、明星会から辰星会へと引き継がれた一件も、間違いなく土門の采配によるものだ。
当然、炎星会に対する制裁にも容赦はないだろうことは予想がつく。

『まだ確固たる証拠を掴んだわけではありません』

慎重な吾妻らしい物言いに、土門は白い歯を見せて笑う。

『まぁ、もう暫くで工藤から連絡があるだろうよ』

そうだ。全てはそれからだ。辰星会の工藤が下手を打つようなことは考え難い。ソツなく結果を出すだろう。

これが片付けば蒴也は陽に費やせる時間が増える。
こんな時に、とは思うがそれが吾妻の偽りない思いだった。

蒴也が明星会の為に創世会の為に情報を掴んだのだ。
であれば、ほんの少しぐらい蒴也が陽の為に使う時間があってもいいと思うのだ。

若頭に厳しい若頭補佐は、誰よりも蒴也に甘い友人でもあるのだ。
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