27 / 197
陽光と新月
27
しおりを挟む
『明日また来るよ。陽くんの様子を見にね』
陽が目を覚ましたら、重湯を少し食べさせるよう指示して佐伯が蒴也のマンションをあとにすると吾妻はすぐに動き出す。中野咲恵の身辺調査を早々に指示したのだ。
それでも
『調査結果を待つまでもないか』
蒴也と吾妻の意見は一致した。
『で、吾妻。重湯ってなんだ?』
明星会の若頭でも知らないことがあるらしい。呆れてしまうが、蒴也が「そんなヤツ」であることは吾妻が一番に理解している。
『お粥の上澄みみたいなもんだな。今日は俺が用意するさ』
かく言う吾妻も重湯など作ったことはない。蒴也の部屋には鍋釜の類いは一切ないのだし。
このマンションの向かいにある和食創作料理店に依頼すれば、どうにかしてくれるだろう。
重湯のついでに自分達の食事も依頼してしまおうと考えた吾妻だった。
スマートフォンでコンシェルジュカウンターの番号を呼び出し、風間に重湯と2人分の食事を依頼する。
具体的なメニューなど今まで見たことはないが、風間であれば過不足のないものを用意してくれることを解っている。
料理を待つ間も蒴也は陽のことが気になってしかたないようだが、吾妻は立場上それを許してばかりもいられない。
「仕事用の顔」になった吾妻が抑揚のない声で蒴也に告げる
『若、フロント企業の仕事をいくつか片付けていただかなければなりません』
組事務所から持ち帰った鞄から、山のほどの書類とノートパソコンを取り出し、蒴也の前に置く。
『その間、陽くんは私にお任せください』
2人だけの空間で、仕事モードに入る吾妻がどれだけ恐ろしいかを蒴也は知っている。表の仕事でも裏の仕事でも2人きりになれば若頭は若頭補佐に頭が上がらないことが多々ある。
『ああ。済まなかったな。全て吾妻に任せてばかりで』
周囲に誰もいない今は吾妻への謝罪は許される。
『いえ』
謝罪に対する短い返答の後、吾妻も愛用のノートパソコンを手にゲストルームへと消える。
一時間ほどしてインターホンが鳴る。インターホンの液晶画面には小さな三段の重箱が2つと、これまた小さな陶器の鍋が1つ乗せられたトレイを持った風間が立っていた。
玄関先でそれを吾妻が受けとると
『仕事しながら食べられるような物ばかり積めさせた』
敵わないと思う。先代の右腕だった風間は、先代にとっても組にとっても、そして創世会にとっても大きな存在だった。何時如何なる時でも隅々まで配慮を欠かさなかったのだろう。
そして今はことの大小に関わらず蒴也の為にと尽力してくれる。
玄関ポーチの内側に立つ吾妻は、ここなら誰にも見られまいと最敬礼で謝意を伝える。
『お手間をとらせました』
トレイを受けとれば、風間は綺麗なお辞儀を1つして踵を返した。
吾妻に後ろ姿を見せたまま、重湯が冷めてしまったら鍋を直接火にかけて、焦げないように混ぜながら温めるよう言ってエレベーターに乗った。
陽が目を覚ましたら、重湯を少し食べさせるよう指示して佐伯が蒴也のマンションをあとにすると吾妻はすぐに動き出す。中野咲恵の身辺調査を早々に指示したのだ。
それでも
『調査結果を待つまでもないか』
蒴也と吾妻の意見は一致した。
『で、吾妻。重湯ってなんだ?』
明星会の若頭でも知らないことがあるらしい。呆れてしまうが、蒴也が「そんなヤツ」であることは吾妻が一番に理解している。
『お粥の上澄みみたいなもんだな。今日は俺が用意するさ』
かく言う吾妻も重湯など作ったことはない。蒴也の部屋には鍋釜の類いは一切ないのだし。
このマンションの向かいにある和食創作料理店に依頼すれば、どうにかしてくれるだろう。
重湯のついでに自分達の食事も依頼してしまおうと考えた吾妻だった。
スマートフォンでコンシェルジュカウンターの番号を呼び出し、風間に重湯と2人分の食事を依頼する。
具体的なメニューなど今まで見たことはないが、風間であれば過不足のないものを用意してくれることを解っている。
料理を待つ間も蒴也は陽のことが気になってしかたないようだが、吾妻は立場上それを許してばかりもいられない。
「仕事用の顔」になった吾妻が抑揚のない声で蒴也に告げる
『若、フロント企業の仕事をいくつか片付けていただかなければなりません』
組事務所から持ち帰った鞄から、山のほどの書類とノートパソコンを取り出し、蒴也の前に置く。
『その間、陽くんは私にお任せください』
2人だけの空間で、仕事モードに入る吾妻がどれだけ恐ろしいかを蒴也は知っている。表の仕事でも裏の仕事でも2人きりになれば若頭は若頭補佐に頭が上がらないことが多々ある。
『ああ。済まなかったな。全て吾妻に任せてばかりで』
周囲に誰もいない今は吾妻への謝罪は許される。
『いえ』
謝罪に対する短い返答の後、吾妻も愛用のノートパソコンを手にゲストルームへと消える。
一時間ほどしてインターホンが鳴る。インターホンの液晶画面には小さな三段の重箱が2つと、これまた小さな陶器の鍋が1つ乗せられたトレイを持った風間が立っていた。
玄関先でそれを吾妻が受けとると
『仕事しながら食べられるような物ばかり積めさせた』
敵わないと思う。先代の右腕だった風間は、先代にとっても組にとっても、そして創世会にとっても大きな存在だった。何時如何なる時でも隅々まで配慮を欠かさなかったのだろう。
そして今はことの大小に関わらず蒴也の為にと尽力してくれる。
玄関ポーチの内側に立つ吾妻は、ここなら誰にも見られまいと最敬礼で謝意を伝える。
『お手間をとらせました』
トレイを受けとれば、風間は綺麗なお辞儀を1つして踵を返した。
吾妻に後ろ姿を見せたまま、重湯が冷めてしまったら鍋を直接火にかけて、焦げないように混ぜながら温めるよう言ってエレベーターに乗った。
10
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる