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陽光と新月
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『法的なことは優秀な弁護士さんに任せるとして』
佐伯は吾妻の入れたコーヒーの香りを楽しみながら蒴也に問う
『若も吾妻君も多忙だよね』
四六時中、蒴也が陽の側にいられるわけではない。しかし、現段階でこのマンションに独り陽を置く時間はあってはならない。
『もちろん僕も協力するけど』
ここで顔を合わせている3人で陽の全てを担うには無理があるのは明白だ。
『でね、1つ提案なんだけど』
陽には専門的な知識を持った人間からの援助が必要だと言う。15年間と言う長い空白を少しでも補う為には蒴也の愛情だけでは到底無理なのだ。厳しいがそれが現実だ。
『僕の友人に陽くんの援助をお願いしてはどうかなと思って』
佐伯の、その「友人」は国立の小児専門医療センターで昨年まで看護師として勤務していたのだという。人としても看護師としても優秀で心や体に様々な症状を持つ子供達と接し、子供の体調変化や心の機微に聡い50代の女性なのだと。
『陽くんはトイレの失敗があった時、長谷美由紀から酷い仕打ちを受けていたよね』
ただ、それは陽の中で長谷美由紀が恐怖の対象となっていたわけではない、と佐伯は言う。
つまり女性を恐怖の対象としているわけではない。
それならば、むさ苦しい男だけで陽を養護するのではなく、女性だけが持つ柔らかさや強さにも触れさせた方がよい。
この世の中には男女がいるのだから、とも。
そしてトイレの失敗以外で身体的精神的な苦痛を与えられていたわけではない。美由紀が子育てに、陽に、関心を持てる知性を持ち合わせていなかっただけなのだ。
陽の心は壊れているのかもしれないが、傷ついてはいない。
いや傷付くと言う感情すら育まれてはいなかったのだ。
『だから、0から始めないといけないんだ』
佐伯の言うことはもっともだ。プロの力を借りなければ、数日の間にも限界が来ることは想像に難くない。
『佐伯先生、その方のこと当方で調査させていただいても?』
吾妻が警戒するのは致し方ない。佐伯のことを信用していないわけではない。
いや陽のことがあってからこっち、至って信頼の置ける人物として位置付けられている。
ただ若頭補佐という立場上、明星会の核心に触れると言える部分に他人が入り込むことに、安易な答えは出せないのだ。
『もちろん構わないよ』
一応、僕の知ってる範囲で彼女のことを話すとね、と続く佐伯の語り口は遠い昔を懐かしんでいるようで、どこか憂いているような決して明るくはないものだった。
佐伯は吾妻の入れたコーヒーの香りを楽しみながら蒴也に問う
『若も吾妻君も多忙だよね』
四六時中、蒴也が陽の側にいられるわけではない。しかし、現段階でこのマンションに独り陽を置く時間はあってはならない。
『もちろん僕も協力するけど』
ここで顔を合わせている3人で陽の全てを担うには無理があるのは明白だ。
『でね、1つ提案なんだけど』
陽には専門的な知識を持った人間からの援助が必要だと言う。15年間と言う長い空白を少しでも補う為には蒴也の愛情だけでは到底無理なのだ。厳しいがそれが現実だ。
『僕の友人に陽くんの援助をお願いしてはどうかなと思って』
佐伯の、その「友人」は国立の小児専門医療センターで昨年まで看護師として勤務していたのだという。人としても看護師としても優秀で心や体に様々な症状を持つ子供達と接し、子供の体調変化や心の機微に聡い50代の女性なのだと。
『陽くんはトイレの失敗があった時、長谷美由紀から酷い仕打ちを受けていたよね』
ただ、それは陽の中で長谷美由紀が恐怖の対象となっていたわけではない、と佐伯は言う。
つまり女性を恐怖の対象としているわけではない。
それならば、むさ苦しい男だけで陽を養護するのではなく、女性だけが持つ柔らかさや強さにも触れさせた方がよい。
この世の中には男女がいるのだから、とも。
そしてトイレの失敗以外で身体的精神的な苦痛を与えられていたわけではない。美由紀が子育てに、陽に、関心を持てる知性を持ち合わせていなかっただけなのだ。
陽の心は壊れているのかもしれないが、傷ついてはいない。
いや傷付くと言う感情すら育まれてはいなかったのだ。
『だから、0から始めないといけないんだ』
佐伯の言うことはもっともだ。プロの力を借りなければ、数日の間にも限界が来ることは想像に難くない。
『佐伯先生、その方のこと当方で調査させていただいても?』
吾妻が警戒するのは致し方ない。佐伯のことを信用していないわけではない。
いや陽のことがあってからこっち、至って信頼の置ける人物として位置付けられている。
ただ若頭補佐という立場上、明星会の核心に触れると言える部分に他人が入り込むことに、安易な答えは出せないのだ。
『もちろん構わないよ』
一応、僕の知ってる範囲で彼女のことを話すとね、と続く佐伯の語り口は遠い昔を懐かしんでいるようで、どこか憂いているような決して明るくはないものだった。
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