太陽と月

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陽光と新月

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緊張からか体を強ばらせる陽の体を佐伯のアドバイス通り、ゆっくりと揺らさないよう縦抱きした蒴也は、目的の場所へと向かう。

そろそろとゲストルームを出た所で陽の体から力が抜けた。一瞬遅れてパニックを起こす。

『冷たい  いやっ!  痛いっ  いやっ!』

間に合わなかったのだ。陽が小さな小さな声で蒴也に伝えたのは

『おしっこ』

これまで過ごしていたアパートとは違う場所で、それでもトイレに行かなければ風呂場で痛いほど冷水を浴びせられることに思考が直結したのだろう。結果、間に合わなかったことでパニックを起こしてしまったのだ。

佐伯はすぐには助け船は出さない。陽のことは甘やかしたいのだが、それは己ではなく蒴也がするべきことだとわかっている。立場を弁えているのだ。

『陽、大丈夫だよ。ほら見て。陽はどこも汚してない』

陽の目線を、そこに持って行くように股の部分を軽く撫でる。
恐らく蒴也が言ってることの殆どを陽は理解できていない。それでも、わかってくれたらいいなと思う。

『陽が失敗したんじゃない。俺が陽を連れて行くのが遅かったんだ。俺の失敗なんだ』

蒴也は思う。今まで、こんなにも言葉を尽くしたいと思った相手はいただろうか。自分の想いを伝えたいと思ったことはあっただろうか。
若頭と言う立ち場から、相手にストンと要求だけを突き付けることは多かった。
相手が何を考えていようと関係なく、そうしなければ組織の統制が取れなくなってしまうからだ。
フロント企業の経営者としても同じようなものだ。結果が全てなのだから、そのための交渉を有利に進めること以外は考えていなかった。相手の腹の中を探ることはあっても、それは相手のためではなく己のためだった。

でも、陽の考えていることは知りたい。陽が何に喜び、何に怯えるのか全てを知りたいと思う。
そして、蒴也が陽に持つ想いも伝えたいと思う。

とは言え、周囲から見たらトイレに間に合わなかった子供を抱え、困っている男が1人、の図である。
蒴也本人は、その滑稽さにまったく気付くことなく1人感傷に浸っていた。

吾妻と佐伯が半目ジト目で蒴也を見ていることにも気付かずに。

今もって命を狙われている明星会若頭が、こんなにもわかりやすい生暖かい視線に気付かない、それは許されることなのか?
吾妻の眉間に深い山脈が象られた瞬間だった。

そしてそれは、佐伯が蒴也に声をかけるまで続いた。

『早く温かいシャワーを浴びさせて着替えさせてあげないと。陽くん、また熱が上がってしまうよ』

蒴也が佐伯の言葉で体勢を立て直す。

そうだ。早く体をキレイにしてあげて着替えさせてあげて、ベッドに寝かせてあげなければ。
陽はまだ起きているのも辛いはずなのだから。
慌ただしく動き出す蒴也を見て、佐伯と吾妻は視線だけを合わせて苦笑した。
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