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出逢い そして救出
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いつになっても美由紀が手を洗い終える様子がない。
『長谷 美由紀さん?』
吾妻は躊躇いつつ声を掛けても美由紀が呼び掛けに応じる気配はない。いや、聞こえているかすら怪しい。
『長谷 美由紀さん?』
再び呼び掛けるも、やはり返事はない。まるで何かに取り憑かれたように手を洗い続けている。
何かを聞き出せる状態とは思えない。
美由紀の手元を見れば、ふやけて所々皮が剥け血が滲んでさえいる。
何が彼女をこうさせているのかは全くわからない。
明らかに外傷を負っているのだ。普通であれば手を洗い続けるよりも、傷のことが気になるだろう。
わからないが放っておいても何も聞きだせないであろうことはわかる。
防音室から出てスマートフォンの通話履歴から佐伯をタップすれば、呼び出し音4回で佐伯の声が聞こえる。いつもは、なかなか電話に出ないにも関わらず、佐伯の第一声で、なぜそんなに早く電話に出たのか合点がいった。
『少年に何かあったのかい?』
開口一番これだ。蒴也も佐伯も、なぜこんなにも少年に気を取られているのだろう。
確かに顔は綺麗だが、所詮は男でしかも子供だ。
まぁ、佐伯の場合は柄にもなく、少年を見る目が慈愛に満ちていたところを見ると、ただ単に小さな子供が心配でならないのだろう。
『いえ。少年の方ではなく同居してたと思われる女の方です』
電話越しであるにも関わらず、佐伯周辺の温度が一気に下がったような気がした。
佐伯に女の様子を問われ、防音室で見たままを伝えれば、自分は門外漢だと取り付く島もない。
吾妻自身も予想、いや確信していたが、精神科医の領分であり、佐伯に来てもらったところで、外傷の消毒ぐらいしか出きることはないと言われてしまう。
それでも、と思ってしまうのは、あの少年の為なのか、それとも蒴也のためなのか。少なくても、この女の為ではないと防音室のドアを見ながら考えていた。
スマートフォンを介しても互いの間に何とも説明し難い空気が流れているのがわかる。
それを破ったのは佐伯の方だった。
『組事務所だよね?暇をもて余しているから、これから行くよ』
闇医者でも腕はいい佐伯の事だ。もて余す程の暇があるとは思えないが、何もせずに手をこまねいているよりは女の、そして少年の、まだ見えていない何かを見つけられるような気がしたのは吾妻だけでなく佐伯も同じだったのだろう。
『お待ちしております』
通話の切れたスマートフォンを見つめながら、炎星会とのゴタゴタよりも面倒なのかもしれないと吾妻は大きな溜め息を吐いた。
『長谷 美由紀さん?』
吾妻は躊躇いつつ声を掛けても美由紀が呼び掛けに応じる気配はない。いや、聞こえているかすら怪しい。
『長谷 美由紀さん?』
再び呼び掛けるも、やはり返事はない。まるで何かに取り憑かれたように手を洗い続けている。
何かを聞き出せる状態とは思えない。
美由紀の手元を見れば、ふやけて所々皮が剥け血が滲んでさえいる。
何が彼女をこうさせているのかは全くわからない。
明らかに外傷を負っているのだ。普通であれば手を洗い続けるよりも、傷のことが気になるだろう。
わからないが放っておいても何も聞きだせないであろうことはわかる。
防音室から出てスマートフォンの通話履歴から佐伯をタップすれば、呼び出し音4回で佐伯の声が聞こえる。いつもは、なかなか電話に出ないにも関わらず、佐伯の第一声で、なぜそんなに早く電話に出たのか合点がいった。
『少年に何かあったのかい?』
開口一番これだ。蒴也も佐伯も、なぜこんなにも少年に気を取られているのだろう。
確かに顔は綺麗だが、所詮は男でしかも子供だ。
まぁ、佐伯の場合は柄にもなく、少年を見る目が慈愛に満ちていたところを見ると、ただ単に小さな子供が心配でならないのだろう。
『いえ。少年の方ではなく同居してたと思われる女の方です』
電話越しであるにも関わらず、佐伯周辺の温度が一気に下がったような気がした。
佐伯に女の様子を問われ、防音室で見たままを伝えれば、自分は門外漢だと取り付く島もない。
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それでも、と思ってしまうのは、あの少年の為なのか、それとも蒴也のためなのか。少なくても、この女の為ではないと防音室のドアを見ながら考えていた。
スマートフォンを介しても互いの間に何とも説明し難い空気が流れているのがわかる。
それを破ったのは佐伯の方だった。
『組事務所だよね?暇をもて余しているから、これから行くよ』
闇医者でも腕はいい佐伯の事だ。もて余す程の暇があるとは思えないが、何もせずに手をこまねいているよりは女の、そして少年の、まだ見えていない何かを見つけられるような気がしたのは吾妻だけでなく佐伯も同じだったのだろう。
『お待ちしております』
通話の切れたスマートフォンを見つめながら、炎星会とのゴタゴタよりも面倒なのかもしれないと吾妻は大きな溜め息を吐いた。
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