太陽と月

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出逢い そして救出

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そうは言ったものの吾妻が一度調査しているのだ。新しい事実は何も出てこないかもしれない。それであれば、尚更おかしなことなのだ。少年は存在を隠蔽されていたか、最初から存在しなかったことになってしまう。

静かに考えを巡らす蒴也に、それ以上言葉をかけることなく吾妻はスマートフォンの連絡先から、ある人物をタップした。

吾妻が連絡先から一番にタップした人物、佐伯孝介はモグリの医者である。
腕は確かなのだが、金に汚く勤務していた大学病院で複数の製薬会社との癒着が明るみになり3年前に解雇されている。
金に汚い、つまりは金さえ払えば大概のことは片付けてくれるヤクザには都合のいい医者だった。

『佐伯先生。吾妻です。往診をお願い致します。若のご自宅で一時間後、お待ちしております。』

その丁寧な言葉遣いとは裏腹に、相手の都合など一切配慮のない吾妻は、次々と電話をかけ手短に用件を伝え指示を出している。

つい先ほどまで蒴也が使っていた部屋の隣で捨て置いた女の回収も指示しているようだ。
もっとも蒴也に手加減なく放り投げられたのだ。運が悪ければ既に息絶えているかもしれないが。

最後にかけた電話の相手だけは、些か様子が違った。ほんの少しだが吾妻の声が柔らかくなったことに後部座席の蒴也も気付いていた。

『あ、菜々子か?済まないが頼みたいことがある』

菜々子は吾妻の歳の離れた妹だ。ヤクザの兄を持つわりにスレたところのない小柄で可愛らしい大学生だ。

『140cmぐらいだな。足の大きさは菜々子と同じぐらいだ。あ、男の子だからな。じゃ、頼んだぞ』

ほんの少し柔らかかった吾妻の声が途切れ、いつもの吾妻が蒴也に声をかける。

『ご自宅に戻られる頃には、佐伯先生がお見えになります。暫くすれば菜々子が、その子の服を持って参ります。』

シャワーで冷水を浴びせられ、その後意識の戻らない少年は毛布越しにも解るほど体が熱くなっている。意識を失う前『吐いた』と言っていたから体調が悪かったのかもしれない。

それにしても、こんな時に不謹慎だとは思いつつ、蒴也は少年に見惚れていた。
まだ10歳ほどだろう少年に三十路の男が目を奪われたのだ。

蒴也が今までノーマルだったはずの己の性的な指向に疑問を持った瞬間だった。

漆黒の髪は肩甲骨を隠すほどに長く、今は生気の宿らない白い頬は、この世の汚れなど一切知らないかのように透き通っている。
意識を失う前に見えた大きな瞳は閉じられているが周りを縁取る睫は動けば音を立てそうなほどに長い。

蒴也は少年を綺麗だと思った。同じ性を持つ年端もいかない子供に対して
綺麗だと、思ってしまった。

自身の内にある不明瞭で仄暗い感情からは目を反らしたまま腕の中の少年を抱き締め溜め息をついた。
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