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出逢い そして救出
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関東創世会は関東一の勢力を誇る指定暴力団である。
創世会一次団体の1つ、明星会若頭の天海 蒴也は、築50年超の木造アパートの狭い和室で己の耳のイヤホンから聞こえる音に傾注していた。
イヤホンからは、盗聴器が拾っている何人かの男の話し声が聞こえる。
このアパートのすぐ隣にある古びたスナックに仕掛けられた盗聴器は至近距離で遮るものもないことで『証拠となる会話』を確聞することができる。
その年季の入ったスナックは、やはり創世会一次団体の1つである炎星会の若頭、篠崎 晃司の愛人名義の居宅・店舗として登記されており、常日頃から炎星会の幹部の面々が頻繁に出入りしていた。
ここ一週間盗聴器が拾う会話を全て録音し無関係と思われるような会話もバックアップを取っているのだが、まだ蒴也が欲しい情報は引き出せていない。
炎星会は創世会が御法度としている違法薬物に手を染めている。
それは間違いないのだが、確固たる証拠を掴めずに3ヶ月が過ぎていた。
この3ヶ月で部下達が集めた大小の情報を繋ぎ合わせ、違法薬物の入手先がチャイニーズマフィアであること、頻繁な取引を避ける為、年に3~4回のみ大規模な取引が実行されていること、その取引は外洋上で船から船へと積み荷を乗せ替える『瀬取り』と呼ばれる方法で為されていることが浮かび上がってきた。
しかし、創世会本部に報告を上げるには証拠としては、あまりに脆弱だ。もっと確たる証拠が必要だった。
その為この一週間、蒴也がこのアパートに籠り、炎星会の内情を探っていたのだ。
とは言え、明星会若頭である蒴也自らが、ここに張り付く必要はなかったのだが、明星会と炎星会の間には、もう1つ厄介な問題を抱えていたのだ。
蒴也が明星会の要職に就いたのは二十代後半のことだった。その才能と手腕そして人望で周囲も瞠目するスピードで若頭に登りつめた現在も三十路を迎えたばかりである。当然そうなれば妬み嫉みの視線を向けられることも多い。妬み嫉みが憎悪に変化していくには大した時間がかからないことを蒴也自身、身をもって理解していた。
そして、ここ1年ほど炎星会の篠崎から、その類いの視線を向けられていることは蒴也にも明星会にも、そして創世会本部にも周知の事実となっていた。
蒴也の失脚を狙い大小様々な嫌がらせを受けていたが大勢に影響がなかった為 特に相手にすることもなく捨て置いたのだ。
それが篠崎の怒りを増幅させたのだろう。
ここ1ヶ月で解り易く2度、命を狙われたのだ。
しかし炎星会も馬鹿ではない。蒴也襲撃に炎星会が関与した証拠はあげられなかった。
証拠がなくても炎星会の関与は明らかなもので、それに対する報復は一太刀も二太刀も浴びせたのだが、蒴也にとっては煩わしいことこの上ない。
この際、蒴也が身を隠すことで、その面倒事を先延ばしにしてしまおうと言うのが、明星会幹部と蒴也が差し当たって出した結論だった。
今は、お粗末な嫌がらせと、それに対する報復の時間が惜しいのだ。
とにかく炎星会の悪事を暴くことに専念したいのだから。
篠崎とて自分の愛人宅の隣人が蒴也だとは思わないだろう。
炎星会が血眼になって捜索しようと蒴也の居場所を突き止めることは難しいはずだ。
部下である優秀な諜報部隊を何人か客として潜り込ませ、店舗にも居宅にも巧みに盗聴器を仕掛け 日がな一日 それを聞いている蒴也には、もう1つ気になる『音』があった。
創世会一次団体の1つ、明星会若頭の天海 蒴也は、築50年超の木造アパートの狭い和室で己の耳のイヤホンから聞こえる音に傾注していた。
イヤホンからは、盗聴器が拾っている何人かの男の話し声が聞こえる。
このアパートのすぐ隣にある古びたスナックに仕掛けられた盗聴器は至近距離で遮るものもないことで『証拠となる会話』を確聞することができる。
その年季の入ったスナックは、やはり創世会一次団体の1つである炎星会の若頭、篠崎 晃司の愛人名義の居宅・店舗として登記されており、常日頃から炎星会の幹部の面々が頻繁に出入りしていた。
ここ一週間盗聴器が拾う会話を全て録音し無関係と思われるような会話もバックアップを取っているのだが、まだ蒴也が欲しい情報は引き出せていない。
炎星会は創世会が御法度としている違法薬物に手を染めている。
それは間違いないのだが、確固たる証拠を掴めずに3ヶ月が過ぎていた。
この3ヶ月で部下達が集めた大小の情報を繋ぎ合わせ、違法薬物の入手先がチャイニーズマフィアであること、頻繁な取引を避ける為、年に3~4回のみ大規模な取引が実行されていること、その取引は外洋上で船から船へと積み荷を乗せ替える『瀬取り』と呼ばれる方法で為されていることが浮かび上がってきた。
しかし、創世会本部に報告を上げるには証拠としては、あまりに脆弱だ。もっと確たる証拠が必要だった。
その為この一週間、蒴也がこのアパートに籠り、炎星会の内情を探っていたのだ。
とは言え、明星会若頭である蒴也自らが、ここに張り付く必要はなかったのだが、明星会と炎星会の間には、もう1つ厄介な問題を抱えていたのだ。
蒴也が明星会の要職に就いたのは二十代後半のことだった。その才能と手腕そして人望で周囲も瞠目するスピードで若頭に登りつめた現在も三十路を迎えたばかりである。当然そうなれば妬み嫉みの視線を向けられることも多い。妬み嫉みが憎悪に変化していくには大した時間がかからないことを蒴也自身、身をもって理解していた。
そして、ここ1年ほど炎星会の篠崎から、その類いの視線を向けられていることは蒴也にも明星会にも、そして創世会本部にも周知の事実となっていた。
蒴也の失脚を狙い大小様々な嫌がらせを受けていたが大勢に影響がなかった為 特に相手にすることもなく捨て置いたのだ。
それが篠崎の怒りを増幅させたのだろう。
ここ1ヶ月で解り易く2度、命を狙われたのだ。
しかし炎星会も馬鹿ではない。蒴也襲撃に炎星会が関与した証拠はあげられなかった。
証拠がなくても炎星会の関与は明らかなもので、それに対する報復は一太刀も二太刀も浴びせたのだが、蒴也にとっては煩わしいことこの上ない。
この際、蒴也が身を隠すことで、その面倒事を先延ばしにしてしまおうと言うのが、明星会幹部と蒴也が差し当たって出した結論だった。
今は、お粗末な嫌がらせと、それに対する報復の時間が惜しいのだ。
とにかく炎星会の悪事を暴くことに専念したいのだから。
篠崎とて自分の愛人宅の隣人が蒴也だとは思わないだろう。
炎星会が血眼になって捜索しようと蒴也の居場所を突き止めることは難しいはずだ。
部下である優秀な諜報部隊を何人か客として潜り込ませ、店舗にも居宅にも巧みに盗聴器を仕掛け 日がな一日 それを聞いている蒴也には、もう1つ気になる『音』があった。
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