俺のせいで不登校になったクラスの美少女が記憶喪失になって再登校してきた件

タナ

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25話 嫌われる者と好かれる者は大体立場が逆である

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 「ごめん、待ったー?」

 私は生徒指導室を出ると走って靴箱まで向かった。そこにはいつものメンバーが待っていて、楽しそうに談笑していた。

 「あ、萌夏!」
 「遅いよ~」
 「ごめんごめん、話が長くなっちゃった」
 「うん?でも生徒指導にしては短くない?」
 「まあ、私だけじゃなくてあいつもいたから」
 「あいつ?ああ、あの萌夏の隣の」
 「そうそう。それに、指導の先生が中田先生だったし」

 いつものように会話が続く。日頃と何の違いもない。

 「で、萌夏はなんで生徒指導になっちゃったんだっけ?」
 「あいつのせいだよ。あいつが叫んだからさ」
 「何で叫んでたんだろうね」
 「私にもわかんない。隣が私で嫌だったとか?」
 「でも萌夏も叫んでたような…」
 「あ、あれはびっくりしちゃったから…」
 「ほんとはあいつが隣で嫌すぎたんだよきっと」
 「そんなことないよー(失笑)?」
 「萌夏、顔が笑ってないよ」

 いつものように悪口を言う。日頃と何の違いもない。

 「あいつさ、なんかキモくない?昼休はずっと2組にいるし、ほとんど誰とも喋らないし。なんで学校来てんだろって感じ(笑)」
 「そうそう!それにあいつこのはに告ってフラれたんでしょ?」
 「しかもこのはを不登校にさせるとか最低すぎだよねー」
 「裁判でも起こしたら面白いのにねwww」 
 「うわー、クラスメートが犯罪者とか嫌すぎー」
 「萌夏どうだった?襲われたりしてない?」
 「もしそうだったら今頃ここに来てないってー」

 いつものように会話が続き、いつものように誰かの悪口を言い、いつものように友達に合わせる。いつものように振る舞い、いつものように笑顔を作り、いつものように輪の中心にいる。
 日頃と何も変わらない。何も変わってない。変われるはずがない。

 なのに。
 それなのに。
 なぜ、どうして。


 こんなに、いつも虚しいのだろう。


 ふと、あいつの言葉が頭をよぎる。
 『チッ、お前と関わると本当にろくなことがねえな…』
 あいつはそう言っていた。でも私には友達がいるし、クラスでも中心的存在だ。

 『ま、どうせキャラ作りとかそんなことだろうけどよ』
 あいつはそう言っていた。でも友達と話すときはすごくだし、キャラクターを作っている自覚はない。

 『ほんと、高校生ってのはどうにも根も葉もない噂を立てたがるよな。無責任なこと言って、そしてそれを何の根拠もソースも無しに信じる。もはや悪徳新興宗教だよな』
 あいつはそう言っていた。これに関しては私も同感だった。友達との会話にも根も葉もない噂が話題に上がることがある。一体、何を根拠に話しているんだか。

 『折角何かのご縁で隣になったんだ、仲良くしようぜ』
 あいつはそう言っていた。
 一瞬、ピタッと思考が止まる。

 「ん?どうしたの、萌夏?」
 「あ、ああいや、なんでもない」

 なんだか、「仲良く」というフレーズに過度な期待を寄せてしまう自分がいる。まあ、小学生のときの友達がいなかった経験がそうさせているのだろうけど……

 (仲良く、か)

 あいつはどういう意味で言ったのだろう。
 イマイチ思考が読めない奴だ。

 (あいつは…寂しくないのかな)

 昼休憩はクラスにいない。ペア作るときは余りもの。隣の人とは喋らない。というか、喋られないのだろう。

 (それって)

 すごく、辛い。
 私だったら耐えられない。見てられない。我慢できない。

 だから、あの子は言ったのか。
 私が友達になってあげる、と。

 (でも、私には…)

 勇気が、ない。
 あいつに話しかける、勇気がない。

 (……弱いなあ、私)

 そして、卑怯だ。
 あいつの悪口言うのも、で叫んでみたのも。
 ことはのことで問いただしてみたのも。
 全部、自分を守るためだ。
 全部、自分の居場所を守るためだ。
 自分のために、私は他人を出しにしていた。
 私は、卑怯で弱くて脆くて臆病。

 (ああ、そうか…)

 そして今、今更、私はようやく気づいた。
 気づいてしまった。

 本当に最低なのは、自分だったことに。
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