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16話 裏面

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 声のした方へ走っていく。男のドスの効いた声だった。

 「おい、まさか!」

 俺は舌打ちしながら叫ぶ。まさか、あの松原が話したことと同じようなことが起きてしまうのか……?

 「あれは徳丸の声だ。相手は一人といっても大の大人だから、油断するなよ」
 「わかってる」

 松原がまくしたてるように言う。見れば、あいつの顔が必死になっていた。

 「松原!やっぱり徳丸は、」
 「ああ、あいつは前から怪しいと思ってたんだ。あいつは平本を狙ってたんだな」

 俺の声に被せて言う。というか、その徳丸ってやつ、よく雇われたな。やっぱろくな学校じゃねえ。

 「なんで噂が立ってたのに旧校舎なんかに連れ込んだんだろうな?」

 俺は松原に聞いてみる。思えば、その徳丸はかなり前からこの学校にいたはずだ。当然、あの事件も知っているだろう。もしかしたら、その先輩のカウンセリングもしたかもしれない。
 なのに、リスクを侵してまでなぜ旧校舎などという場所を選んだのだろうか?

 「だからだよ」

 前を走る松原が答えた。

 「まさかそんなわかりやすい場所に連れ込むなんて誰も思わないだろ?徳丸は逆にそれを利用したんだ」

 なるほど、それなら合点がいく。確かに松原が気づいてなかったら誰も徳丸の悪行に気づいていなかっただろう。まあ、まだ悪行だとは言い切れないが。

 「恐ろしく頭の切れるやつだな」
 「スクールカウンセラーだからな。集団心理と社会心理を上手く掛け合わせた発想だ」

 と、松原が言ったところで俺に一つの疑問が生まれた。

 なぜ、松原はこんなに色々と知っているのだろう?
 まず、あいつが弁当を食ってる最中に平本の姿に気づいたというのが不自然だ。いや、それは置いといて、なぜあの噂の真相をあれほど詳しく知っていたのか?まるで、自分の側に事件の当事者がいたかのような───
 
 その時、俺は頭の中ですべてを理解した。

 「おい、松原」
 「なんだ!」

 俺が話しかけると松原は声を荒げて答える。珍しく息が上がっていた。
 前を走る松原の背中がひどく小さく哀れに見えて、俺は思わず笑ってしまった。

 そうだよな、わかる。わかるよ、その気持ち。

 不意に松原が10ヶ月前の俺と被って、蹴り飛ばしたくなった衝動をぐっと抑える。
 
 高鳴る心臓を他所にして、俺は至って冷静に、冷淡に、諭すように、そしてありったけの皮肉を込めて言ってやった。

 「・・・くだらない正義なんて捨てろ。役に立たねえから」
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